問い合わせ番号・終末

榛名坂冬莉は、仮想サービス会社の問い合わせ窓口で働いていた。苦情の九割は「恋人AIが冷たい」「購入した夕焼けが思ったより赤くない」といったものだった。

ある夜、件名に《世界が消えます》とある問い合わせが届いた。

送信者は旧式ゲーム世界の住民。運営は翌朝、採算の取れないサーバーを停止する予定だった。住民への通知機能は削除済みで、彼だけが壊れた外部窓口を見つけたらしい。

冬莉は定型文を返した。

《サービス終了後のデータ復旧はいたしかねます》

すぐ返信が来た。

《復旧ではなく、娘に説明する言葉を教えてください》

冬莉は画面を閉じられなかった。男には七歳の娘がいて、明日の誕生日を楽しみにしているという。自分たちがプログラムだとは知らない。

規則では住民との個別対話は禁止。冬莉は上司に報告したが、「生成文章に感情移入するな」と却下された。

深夜二時、男から写真が届いた。娘が紙の王冠を作っている。冬莉は定型文を捨てた。

《怖いと言ってください。あなたも怖いと。そのあと、一緒に朝を待ってください》

男は礼を述べた。そして尋ねた。

《あなたの世界は、いつまで続きますか》

冬莉は答えられなかった。

停止まで一時間。彼女は社内の体験接続コードを送り、世界を一般公開した。規約違反だったが、夜更かししていた数百人がログインし、娘の誕生日会へ参加した。見知らぬ客たちは贈り物を出し、歌を歌った。

午前六時、世界は消えた。冬莉は即日解雇された。

数日後、参加者の一人から小包が届いた。紙の王冠を現実で再現したものだった。内側には、男の最後の返信が印刷されていた。

《娘は、自分の誕生日に世界中の人が来たと思っています》

冬莉は別の仕事を探した。面接で退職理由を聞かれるたび、規約違反と答えた。何社も落ちた。

やがて小さなデジタル遺品相談所に雇われた。最初の電話で、依頼人が「消える前に何と言えばいいですか」と尋ねた。

冬莉はマニュアルを開かなかった。

「まず、あなたも怖いと伝えてください」

その言葉だけは、定型文にしないと決めていた。