嘘しか言えない証人を真実にする

王都法廷の通訳ハルザは、処刑台の脇に立たされていた。

被告は薬師見習いの少女。公爵殺しの罪を着せられ、唯一の目撃者は「少女が刺した」と証言した。

だが目撃者の首には、発言を必ず反対の意味へ変える《反語の枷》が巻かれていた。

【固有スキル《復号翻訳》:規則に従って変換された発話を、その規則が適用される前の意味へ置き換える】

枷の存在を訴えても、裁判長は笑った。

「嘘を真実へ変える魔法などない。あるのは言い逃れだけだ」

処刑の鐘が一度鳴る。あと二度で刃が落ちる。

ハルザは目撃者へ尋ねた。

「公爵を刺したのは、あの少女ですか」

「はい。彼女が短剣を持ち、笑いながら胸を刺しました」

枷は偶然に嘘を言わせるのではない。真実の命題を一つずつ否定し、主語と行為を反転させる規則的な言語だった。

ハルザが翻訳すると、目撃者の声の上へ別の文が現れる。

《いいえ。短剣を持っていたのは公爵の弟で、少女は泣きながら止血しました》

法廷がざわめく。

裁判長は二度目の鐘を鳴らし、衛兵へハルザを黙らせるよう命じた。

彼女は続ける。

「公爵の弟は、この裁判に関与していませんね?」

「もちろんです。裁判長へ金を渡したことも、証拠の短剣を入れ替えたこともありません」

翻訳文が天井いっぱいに広がった。

《関与している。裁判長へ金を渡し、証拠の短剣を入れ替えた》

裁判長が最後の鐘へ手を伸ばす。だが法廷の真実判定石は、翻訳前ではなく復号された意味へ緑の光を返した。

衛兵は処刑縄を切り、公爵の弟と裁判長を囲む。

反語の枷が砕け、目撃者は初めて自分の言葉で「ありがとう」と言った。

薬師見習いの少女は自由になるなり、枷で喉を傷つけた目撃者へ薬を塗った。法廷の証拠箱からは、入れ替えられた本物の短剣と裁判長名義の入金証が見つかる。どちらにも公爵の弟の指紋が残っていた。

裁判長は「私は無実だ」と叫んだが、反語の枷を外された証人とは違い、彼の言葉に変換規則はない。判定石は真っ赤に染まり、今度は誰の翻訳も必要としなかった。

処刑刃が引き上げられ、三度目の鐘の代わりに、ハルザの職業欄が鳴った。

【職業《法廷通訳》が上位職《反語審問官》へ書き換わりました】