四二一番は先に出る

医薬品研究員の深町が夜間実験の途中で行方不明になった。最後に研究棟へいたのは同僚の相馬、警備員の朝倉、試薬を届けた小田切。朝倉は「午後九時五分、深町さんが自販機でココアを買うのを見た。その時は無事だった」と証言した。

休憩室には二つの紙コップが残っていた。一つはココア、一つはブラック珈琲。朝倉は珈琲が自分、ココアが深町の物だと説明した。相馬は研究データの競争相手、小田切は搬入ミスを深町に告発され、朝倉は無断持ち出しを見つかっていた。その証言が正しければ、八時半に退館した相馬と小田切は失踪に関われず、疑いは二人から外れる。

機器担当の篠塚は、自販機の記録を印刷した。

「順番を決める手掛かりは三つです」

一つ目。この機械は重ねたコップを上から落とすため、底の連番は四二一、四二〇のように一つずつ小さくなる順で出る。

二つ目。販売記録では、八時十分にココア、九時五分にブラック珈琲が一杯ずつ売れている。

三つ目。残ったコップは、番号四二一にココアの膜、四二〇に珈琲の黒い染みが付いている。

番号は底に小さく印刷され、普段なら誰も見ない。朝倉は飲み物の種類だけを語れば足りると思ったのだろう。篠塚は販売機の癖を、二つの紙杯の時系列へ変えた。

朝倉は印字をにらんだ。

「深町さんが九時に、前の番号のコップを使ったのかもしれない」

「機械の内部へ手を入れない限り、後から大きい番号は出ません」

篠塚は二つを購入時刻の順に並べ直した。

「四二一は先に出たココア、四二〇は後に出た珈琲です。つまり深町さんが飲んだのは八時十分、九時五分に自販機を使ったのは朝倉さんだった。あなたは二つのコップの所有時刻を逆に語り、深町さんの生存を一時間近く延ばした。連番の下降、販売順、飲み物の残留。この三点は交換の余地を残しません」篠塚が告げると、朝倉は夜勤表を伏せた。捜索の基準時刻は九時から八時へ戻り、警察は彼の巡回車の記録を開いた。朝倉が入れ替えたのはコップそのものではなく、二つの飲み物を誰がいつ買ったかという説明だったが、連番はその逆転を許さなかった。