城門の未使用機能

「一度も使われていない機能しか読めない鑑定士に、整備は任せられぬ」

王立技師長ガヴェドはベリスカを機巧院から追放した。

【未用鑑定:人工物が備えながら、一度も作動させていない機能を一つ表示する】

使い込まれた道具には『なし』ばかり。新しい機械なら設計書を読めば足りる。ベリスカは工具箱を抱え、城門を出た。

翌朝、地平線を魔王軍が埋めた。

王都は古代文明の城壁に囲まれていたが、敵は大地を腐らせる沼を広げてくる。壁は破られなくても、三日で都そのものが沈む。すでに西区の井戸は傾き、地下倉庫へ黒い泥が染み出していた。国王アウレムは全市民の避難を命じたが、老人と病人を運ぶ馬車だけで夜が明ける。敵の騎兵は、逃げる列を待つように高台へ並んでいた。

ベリスカは、誰もが毎日通る東城門へ手を置いた。

千年間、開閉だけを繰り返した巨大な人工物。鑑定結果は、初めて見る言葉だった。

――未使用機能:都市歩行形態への移行。

「城門ではなく、起動装置です」

技師長は鼻で笑った。

「城が歩くとでも?」

ベリスカは門柱の装飾を調べた。十二頭の獣像のうち、一頭だけ足が逆向きに彫られている。それを回すと、王都全体の地面が震えた。

家々の下から石の脚が伸びる。城壁は円形の甲羅となり、堀が関節へ変わった。王都は巨大な亀のように、腐った大地からゆっくり立ち上がった。

魔王軍が呆然と見上げる。

「前進させます。全員、家具を固定してください!」

ベリスカが門の横棒を押す。都市は一歩を踏み出し、その足で敵の攻城塔をまとめて砕いた。二歩目で沼を越え、三歩目には安全な岩盤へ移る。背後では、進路にいた魔王軍が散り散りに逃げていた。

王都が腰を下ろすように停止すると、国王は東門まで歩いてきた。技師長が「古代の偶然」と弁明するのを、片手で黙らせる。

「千年、誰も使わなかった力を、無いものと決めつけていた」

アウレムはベリスカの工具箱へ王家の紋章を打った。

「今日から王国そのものの整備を任せる。次にこの都が何をできるか、そなたが見つけよ」