塩骨の花嫁

海辺の婚礼壇で、シェルナは悪魔ケルザと杯を交わした。

花婿ドゥイェンは既に溺れている。波間に立つ黒い影は彼の身体を借り、村の子ども十二人を海へ差し出せと要求した。

契約の杯を飲んだ花嫁は、悪魔へ「一人を助けよ」と命じるたび、自分の骨を一本、塩に変えられる。

「まず、あの子を返して」

海に沈んでいた幼子が波の上へ押し出された。代わりに、シェルナの左手の小指が白く透け、骨が塩になった。力を入れると、内側で細く砕けた。

二人目。右の小指。

三人目。足の指。

村人たちは止めた。十二人を救えば、立てなくなる。

「契約は一人ずつだ」とケルザが花婿の口で笑う。「まとめては救えぬ」

シェルナは子どもたちの名を一人ずつ呼んだ。

五人目で足首が崩れ、膝をつく。七人目で肋骨の一本が塩になり、息を吸うたび胸の中で砂が鳴る。

九人目。肩甲骨。

十人目。背骨の下端。

身体が傾き、白い粉が衣裳の裾からこぼれた。

十一人目を返すと、顎の骨が塩へ変わった。口がうまく閉じず、最後の名を発音できない。

波の中で、最年少の少女ニエラが手を伸ばしている。

ケルザが囁く。

「名を言えなければ命令にならぬ」

シェルナは舌で血を出し、婚礼壇へ少女の名を書いた。声の代わりに、その文字を指さす。

契約杯が鳴った。

ニエラが砂浜へ投げ出される。

最後の代価は頭蓋骨だった。

シェルナの顔が内側から白く固まり、瞳だけを残して塩の像になる。花冠が傾き、頬へ一本の亀裂が走った。

十二人の子どもは全員、親の腕へ戻った。海を借りていた影は花婿の身体から抜け、沖へ退く。

ドゥイェンは息を吹き返し、婚礼壇へ這い上がった。

「シェルナ」

塩像は答えない。

彼が抱きしめると、胸の中で塩になった肋骨が、かすかな音を立てて砕けた。

村には犠牲者が一人も出なかったと記録された。

けれど海風の強い日、婚礼壇から白い粉が少しずつ飛び、花嫁の身体だけが毎年細くなった。最後まで残ったのは、血で書かれた十二人目の名だった。