声を使わない回答

鳥羽見馨は、白板に一行書いて御子神伊織へ向けた。

〈私は主催者の共犯だ〉

伊織は鼻で笑い、その文を声に出して読んだ。

「私は主催者の共犯だ」

赤い光が彼の首輪を走る。

三人目の針生美雨が息を呑む。壁の規則は一つだった。

〈交互に相手から渡された一文を発声せよ。発声した文が嘘なら脱落し、最後に残った一名を解放する〉

各手番には白板、紙、録音機が一つずつ置かれていた。道具の多さは演出に見えたが、馨は『渡す』と『発声する』が別の行為であることに気づいた。

最初の手番は馨。文を「渡す」方法は指定されていない。主催者は口頭で相手へ嘘を言わせ、復唱した者だけを処刑する残酷な連鎖を想定していた。

馨は一言も話さず、白板へ嘘を書いた。

書くことは発声ではない。部屋の判定対象にならない。しかし受け取った伊織には、規則どおり発声する義務がある。彼は共犯ではなく、文は嘘だった。

「こんなの、書いた本人が嘘をついただろ!」

『規則は、嘘を考えた者でも記した者でもなく、発声した者を判定します』

主催者の返答に、伊織の顔が歪む。自分で作った文面に自分が縛られている。

次は美雨の手番。彼女は馨へ白板を渡し、そこへ〈この白板には文字がある〉と書いた。

馨は声に出す。

「この白板には文字がある」

緑灯。

最後に馨は、美雨へ〈私は今、呼吸している〉と書いた。美雨が読み上げる。これも真実。二人が残る。

『最後の一名になっていません』

馨は白板へ新たに書く。

〈規則上、脱落者が増えない限り続行不能〉

美雨はそれを発声しない。手番はもう終わっている。装置は追加発言を要求できず、二名のまま停止する。安全処理で二人の首輪が外れた。

馨は初めて声を出した。

「嘘をつけない部屋なのに、文字は見ていなかった」

主催者は声だけを商品にした。悲鳴も告白も、音にならなければ価値がないと思っていた。

白板の黒い一行は、誰にも読み上げられないまま出口のそばに残った。