夜勤ロットのない歩留まり

桑原晴登は半導体工場の工程技術者になって一年目だった。自動車メーカーへ制御チップを供給する長期契約の更新会議で、歩留まり表を説明することになった。

資料では直近三か月の歩留まり九十六・二パーセント。品質部長の江藤は、安定生産を強調した。

晴登はロット番号の並びに空白を見つけた。D804、D805、D809。D806からD808までがない。

三ロットは夜勤で製造され、歩留まり四十一パーセントだった。微細配線の断線が集中し、一部は良品判定後の耐久試験で故障している。

「試作条件だから集計外だ」と江藤は言った。

晴登は製造指図書を示した。三ロットはすべて量産品として顧客注文番号に紐づき、出荷予定欄にも記載されている。試作ではない。

自動車メーカーの購買役員は、未出荷なら問題は限定的だと述べた。

晴登は倉庫移動記録を開いた。D806のうち二千個は、番号をD805へ付け替えてすでに出荷準備棚へ移されていた。ラベル発行者は江藤のID。発行時刻は夜勤終了の午前六時十二分だった。

江藤は、若手が工程全体を理解していないと叱った。契約が消えれば新棟計画も消え、晴登の同期百人が配置転換になる。

晴登は歩留まり計算をやり直した。三ロットを含めれば八十二・七パーセント。九十六・二との差は、一万八千個の不良を分母から消した結果だった。

さらに品質保証書の署名時刻は午前五時五十分。夜勤ロットの最終検査が終わる二十二分前である。

晴登はD806から抜き取ったチップの耐久結果も示した。百二十時間以内に十個中六個が停止している。江藤は選別強化で対応できると言ったが、選別条件を記した変更票には顧客承認欄が空白だった。契約上、無断で出荷判定を変えることはできない。

自動車メーカーの役員が更新契約書を閉じた。江藤の説明は続いていたが、押印欄のページは戻され、五年契約の決裁はD806の空白で止まった。