太陽を隠す銅貨一枚
「銅貨ほどの影を一呼吸だけ作る? 日傘にもならぬ」
太陽術院の審査で、レアザは無能とされた。
【魔法:《小陰》――光の当たる面へ、銅貨大の影を一呼吸だけ置く】
夜には使えず、動く物へ付けてもすぐ外れる。レアザは王宮の日時計係へ回された。
彼は雲の影が針へ触れる一瞬まで記録した。太陽の力は巨大でも、時刻を決めるのは細い影だ。光の術式も、暗さの量ではなく位置を読むと気づいていた。日時計がそれを証明していた。
夏至の日、敵国の太陽砲が王都を狙った。
丘の上に築かれた黄金環は、十二枚の受光印へ日光が途切れず当たる間だけ力を蓄える。太陽王クロナクの闇術師は雲を呼ぼうとしたが、砲の周囲では影を生む魔法ほど強く焼き払われた。
砲口には、王都を消すほどの白光が満ちていく。
騎兵が黄金環へ近づけば、受光印から伸びる熱線で蒸発した。矢も盾も、印へ届く前に灰になる。クロナクは王宮の反射鏡で光を逸らそうとしたが、太陽砲はさらに光を吸った。
日時計を管理していたレアザは、砲の設計図を見たことがあった。
十二の印のうち十一は大きい。中央の起動印だけは銅貨と同じ大きさで、そこが一呼吸でも暗くなれば安全術式が蓄積を捨てる。強い闇は敵と判断して焼くが、彼女の影には熱も魔力圧もない。
レアザは王宮塔の鏡筒から中央印を覗いた。
《小陰》。
銅貨大の影が、黄金環の中心へ落ちた。
一呼吸だけ、太陽砲は十二番目の光を失う。
白光が砲口から後ろへ戻り、蓄積槽の排出孔から空へ噴き上がった。丘の上に巨大な光柱が立つ。砲は安全停止し、黄金環が自重で崩れた。
クロナクの騎兵が煙の丘を占領したとき、王都の屋根は一枚も焼けていなかった。
審査官が「影は一呼吸で消えた」と言う。
太陽王は日時計の針を抜き、その男の足元へ置いた。
「一呼吸あれば、人は生きるか死ぬかを選べる」
クロナクは黄金の術章をレアザへ渡す。
「太陽を消す者ではない。止めるべき一枚を暗くできる者を、今日から太陽術師と呼べ」