失恋のたびに花束を
叶は、男を見る目がない。
恋人ができるたび私は相手を調べ、危ないところを教えてきた。元彼が女性の投稿へ「いいね」を押していたこと。別の元彼が婚活アプリを退会していなかったこと。叶は最初こそ「気にしすぎ」と笑うが、証拠を見せれば別れを選ぶ。
その夜には必ず、私が白い花束を持っていく。
「次はもっといい人がいるよ」
親友だから言える言葉だ。叶は泣きながら花瓶を出し、私の見る前で相手の連絡先を消す。念のため、ブロック画面まで確認する。戻りたくなるのは依存だからだ。
新しい恋人の写真を見せられた夜、私はいつものように匿名アカウントを作った。彼の投稿へ近づき、独身か尋ねる。返事をした時点で不誠実、無視しても秘密主義。どちらにしても叶には向かない。
ただ、その男はすぐに「紗英さんですか」と返した。
私は端末を伏せた。叶が私の手首をつかみ、画面を起こした。彼女は驚かなかった。
「今回、名前を変えなかったの?」
私は確認のためだと説明した。叶がまた傷つかないよう、わざと誘惑しただけ。過去の相手にも同じことをしたが、応じたのは彼らだ。私を責めるのは筋違いだった。
叶は棚から箱を出した。中には、私が贈った白い花束のカードが七枚並んでいた。どれも裏側に、匿名アカウントのIDと作成時刻が書かれている。
「花を買ったあとで、いつも試すんだね」
順番に意味はない。どうせ別れると分かっていたから、先に用意しただけだ。
玄関のチャイムが鳴った。恋人と、過去の六人が立っていた。叶は全員へ、私から届いたメッセージを共有していたらしい。誰も私を責めなかった。ただ、同じ文面を見比べていた。
〈叶はあなたに釣り合わない〉
〈私のほうが話が合うと思う〉
〈これは叶のためだから、内緒にして〉
私は白い花束を抱え直した。叶が今日も泣くと思って買ってきたものだ。
彼女は花を受け取らず、扉を閉めた。
帰宅してアカウントを削除しようとすると、下書きが一件残っていた。宛先は叶の新しい勤務先の上司。
送信予定日は、彼女が昇進を報告した翌日だった。