家のかたちを抜く

雨宮風花は、金物店いづつのレジへ、家の形をした抜き型を置いた。三角屋根に四角い窓。薄いブリキは片側がへこみ、もう同じ形のクッキーは抜けそうになかった。

祖父はこの店へよく通い、台所道具を一つずつ選んだ。亡くなる少し前まで、正月にはその型でクッキーを焼き、孫たちへ配っていた。風花が相続した古い家の台所から、最後に見つかった品だった。空き家の鍵より小さく、掌の中へ収まった。

その家を売るかどうか、親族は風花に任せた。駅から遠く、修繕費もかかる。それでも手放せば、祖父が帰る場所までなくなる気がして、査定書を机の下へ隠していた。住む予定はない。月に一度、換気のためだけに通い、空の部屋へ「来たよ」と言う。そんな自分を、孝行だとも無駄だとも決められずにいた。雨漏りの見積書は増え、祖父が植えた木は隣家の塀へ枝を伸ばしている。時間を止めているつもりでも、家だけは古くなり続けていた。

店主は抜き型を作業台へ置き、細い木槌でへこみを戻した。風花は元の家と同じ形に直るのを待ったが、店主は屋根の角度をわずかに変えた。錆びた部分を切り落としたため、煙突もなくなった。

「形が変わりましたね」

風花が言うと、店主は新しい縁へ指を滑らせ、手を切らないことだけ確かめた。元の形へ似せるための飾りを足さず、食品用の薄紙で拭く。試しに粘土板へ押すと、小さな家が一つ抜けた。祖父の家とは違うが、家だと分かる輪郭だった。

店主は修理代の札へ「型直し」と書き、「復元」とは書かなかった。包装も箱ではなく、平たい紙封筒だった。古い型が場所を取らず、引き出しへ収まる厚さになる。

風花は店先で、不動産会社から届いた査定メールを開いた。保存していた返信文の「もう少し考えます」を消す。

「売却の手続きを進めてください」と入力し、送信した。紙封筒の上から指でなぞると、変わった屋根の線が分かった。家の形は残った。家そのものを空のまま残す必要はなかった。次に焼く生地だけは、これから選べる。