封印番号七三一
コーヒー豆輸入会社の融資更新会議で、鳴瀬川侑生は通関業者の新人として、二十トンの生豆を三社へ転売した記録を説明していた。三回の取引で売上は合計一億八千万円。銀行はその実績を基に運転資金を増額する予定だった。
各取引には別々の請求書と倉庫受領書がある。だがコンテナ封印番号は全て「JP731」。
侑生は港湾記録を示した。コンテナは入港後、輸入会社の保税倉庫へ入り、三週間後も同じ位置にある。封印JP731は一度も切られていない。
社長は、現物を動かさず倉庫内で所有権だけ移したと説明した。
一社目、二社目、三社目の契約には、それぞれ「品質確認のため開封検査済み」と記載され、受領印も押されている。封印を切らずに豆を検査することはできない。
三社の支払資金も同じだった。輸入会社が一社目へ六千万円を貸し、一社目が二社目、二社目が三社目へ貸し、三社目が輸入会社へ購入代金として戻している。三回の売上に見えて、資金は一周しかしていない。
受領印を重ねると、三社とも円周の左に同じ欠けがあった。輸入会社の営業印画像へ、会社名だけを差し替えている。受領時刻も午前十時一分、二分、三分と一分刻みだった。
銀行部長は、豆の価値が担保になるなら問題は小さいと言った。
侑生は品質証明を開いた。豆は農薬基準の再検査中で、販売許可がまだ出ていない。三社へ売れる状態ですらなかった。
「封印が一度も開いていないのに、三社が香りを確認したことにはできません」
侑生は港の封印完全性証明を拡大した。JP731は入港時から傷一つ増えておらず、税関職員の確認署名もある。三社の検品報告には「香り良好」「欠点豆二パーセント」と具体的な記載があったが、封印の外から豆を数える方法は誰も説明できなかった。
倉庫管理者も、名義変更の依頼を一度も受けていないと証言した。
銀行役員が融資更新印を置いた。番号七三一の封印は切れず、一億八千万円の取引だけがそこで閉じ込められた。