屋上から落ちた星
文化祭の手作りプラネタリウムは、屋上の倉庫で開かれた。
黒い遮光布を張り、段ボールの投影機へ穴を開ける。天井には夏の星座が映る予定だったが、本番になると一つだけ大きすぎる光が混じった。
「何あれ」
「星じゃない」
「穴、破れた?」
案内役の小日向紬稀は、暗闇の中で投影機を止めた。
北斗七星の横に、満月ほどの白い丸があった。誰かが段ボールへ肘をぶつけ、穴を広げたらしい。
客は待っている。
修理するには明かりをつけ、全員を一度外へ出さなければならない。次の回にも間に合わない。
紬稀は投影機を再び回した。
「今見えている大きな星は、今日だけ現れる名前のない星です」
隣で解説係の杵築広夢が小声で訊く。
「そんな台本あった?」
「今できた」
「位置、動くけど」
「流浪星」
「雑」
それでも客席の子どもたちは信じた。
「名前ないの?」
「見つけた人がつけていいです」
あちこちから名前が上がった。白玉星、文化祭星、穴あき星、まぶしいやつ。紬稀は全部肯定した。
投影機が回るたび、大きな星は壁から天井へ移動した。
本来の星座解説は崩れた。広夢は仕方なく、その星がオリオン座を追い越し、天の川へ落ち、最後は屋上から地上へ降りてくる物語を即興で語った。
暗い部屋で、客は天井ではなく、移動する白い丸を追った。
上映後、広夢が破れた穴へ黒いテープを貼ろうとした。
紬稀は止めた。
「次も残す?」
「一回だけの失敗じゃなかったの」
「もう名前ついたから、消すとかわいそう」
午後の回では、流浪星の物語が少し長くなった。夕方には、来場者が紙へ星の名前を書き、壁へ貼る企画になった。
『帰り道星』
『テストなくなれ星』
『おばあちゃんに見せたい星』
最後の上映で、紬稀は投影機を止めずに扉を開けた。
外の夕日が入り、偽物の星は一瞬で消えた。客が「あ」と声を上げる。
「流浪星は、文化祭が終わると地上へ落ちます」
屋上へ出ると、西の空に一番星が見えた。
広夢が言う。
「あれ、穴より小さい」
「本物だから遠いの」
「名前は?」
「まだない」
二人は片づけのあとまで、名前を考えた。
結局決まらなかった。
だから紬稀の記憶の中では、あの日の星だけが、誰のものにもならない名前のない光として、今も屋上を回り続けている。