左隣を選び直す

鳴子千紘は自分の椅子から立ち、空いていた第四席へ座り直した。

小田切曹が髑髏のカードを押さえ、牧田日和は月のカードを胸へ寄せる。千紘の元の席には太陽だけが残った。

壁の規則は一つ。

〈制限時間内に左隣の参加者とカードを交換し、終了時に月を持つ者を解放する〉

三人は四角い卓の三席へ座らされ、一席だけ空いていた。最初の配置では、千紘の左隣は髑髏を持つ曹。交換すれば確実に負ける。右隣の日和が月を持っているが、規則上は選べない。

「席を移るな!」曹が叫ぶ。

「固定席とは書かれていない」

第四席へ移った千紘から見れば、左隣は日和になった。床の矢印表示も追従し、左向きの光が日和の席へ伸びた。卓上の矢印も、新しい席を基準に左を示す。

『参加者の座席は入室時に確定しています』

「座席番号はどこにも登録されていない。首輪も椅子ではなく床の中央支柱につながっている」

主催者は、空席を「逃げ場があるように見えて使えない演出」として置いたのだろう。だが座面には三席と同じ生体センサーがあり、千紘が座ると参加者名が表示された。

残り二分。千紘は日和へ太陽を差し出す。

「月と交換して」

日和は拒もうとした。しかし「左隣の参加者と交換」は全員の義務だ。彼女の左隣は曹ではなく、席を移った千紘。交換しなければ失格になる。

日和は月を渡し、太陽を受け取った。曹は元の千紘の空席を左隣だと主張したが、そこに参加者はいない。彼は日和と交換するため、椅子を一席ずらす。結果、髑髏と太陽が入れ替わった。

終了ベル。

月を持つのは千紘。

〈勝者、鳴子千紘〉

『左隣とは、開始時の配置を指します』

「開始時という語がない。左は、人が動けば変わる」

首輪が外れ、第四席の背が出口側へ倒れて階段になる。空席は本当に、最初から脱出経路だった。

千紘は月を掲げた。

「主催者は、座らされた場所を自分の場所だと思わせた。カードを選べないなら、隣人を選び直せばいい」

彼女が階段を上ると、月の銀箔が初めて光を返した。