幕が上がらなかった初日

劇団参謀レムキアを追放した翌日、王都公演の初日は満席だった。

それなのに、幕は上がらなかった。

主演も楽団も舞台にいる。足りないのは背景幕と衣装箱だった。劇団長カンダルが「最短だから」と大道を使わせた荷馬車が、王太后の誕生日行列に挟まれて動けなくなったのだ。

行列は夕暮れまで続く。客席では足踏みが始まり、貴族から順に帰った。払い戻し窓口へ人が殺到し、初日だけで地方巡業三か月分の利益が消えた。

「行列があるなら役所が知らせるべきだ!」

カンダルは怒鳴った。

知らせは一月前に出ていた。レムキアは市ごとの祭礼、門の開閉、荷車が通れる裏道を調べ、道具だけ前夜に運び込んでいた。彼女が毎朝作る細かな搬入表を、役者たちは「舞台に立てない者の自己満足」と呼んだ。

追放した夜、団長は表を紙吹雪にして祝った。

客席の怒号で主演の声は潰れ、楽団員は待ち疲れて帰った。契約していた菓子商と花屋も、客へ品を売れなかった損害を請求する。満席だったという実績だけが残り、劇団は一度も芝居を見せず王都で悪名を得た。

団長が破いた紙吹雪を拾うと、紙片には「北門閉鎖」「馬車高さ制限」「予備衣装は手持ち」といった文字があった。レムキアの表は時刻表ではなく、街そのものを舞台裏へ変える設計だった。

後援者だった王都銀行は、二日目以降の前払金まで凍結した。舞台へ出られない失敗が、劇団そのものを王都から退場させようとしていた。

その頃レムキアは、川沿いの小さな人形劇団を市場の仮設舞台へ案内していた。

「魚市が終わる鐘の直後に東門から。大道は使いません」

荷車は一度も止まらず、開演五分前に最後の人形が吊られた。子ども百人の笑い声が川岸へ広がる。祭典監督オフィナは、レムキアへ全公演の進行札を任せた。

「客は幕の裏を見ない。だからこそ、裏が止まらない人を一番に評価します」

夜、王都から早馬が来た。二日目を成功させれば副団長にする、搬入表を持って戻れという。

レムキアは新しい進行札を裏返した。

「旧劇団との制作契約は、昨日の除名で終了しています」