幕の上の鍵

市民劇場の最終稽古中、危険な舞台銃を収めた保管庫の鍵が演出卓から消えた。演出家の墨染は鍵を台本の上へ置き、三人の関係者に実包混入の疑いを告げた。暗転稽古が始まり、五秒後に作業灯が点くと、鍵がない。稽古場の出入口は安全確認のため内側から閉鎖されていた。

容疑者は舞台係の桐ケ谷、主演の浅黄、制作責任者の楮原。保管庫には実包を入れた人物を示す作業記録がある。全員の衣装と道具を調べても鍵は見つからない。暗転中、舞台奥では城壁を描いた大幕が、次の場面のため天井へ巻き上げられていた。

墨染は実包が残る保管庫を開けられないまま稽古を止め、客席には緊張が広がった。浅黄は制作側の管理不備を責め、楮原は主演の自作自演だと言い返した。桐ケ谷は暗転表を確認しながら、舞台上の物はすべて所定位置にあると断言した。確かに床にはなかったが、舞台の所定位置は床だけではない。

手掛かりは三つだけだった。第一に、演出卓の鍵跡のそばへ、四センチ四方の粘着剤が長方形に残っていた。第二に、巻き上げられた大幕の下端は暗転時だけ演出卓をかすめ、その一角に黄銅色の塗料が付いていた。第三に、桐ケ谷の黒い布テープは先端から四センチだけ切り取られ、粘着面に台本の白い紙粉が残っていた。

浅黄は「幕が鍵を拾うなんて」と天井を見上げた。だが鍵の上へ粘着面を下にしたテープ片を置き、大幕の裾へ貼れば、巻上げと同時に鍵は頭上へ運ばれる。

私は大幕を降ろさせた。裾の裏から鍵がぶら下がっていた。「桐ケ谷さんは暗転直前、鍵に布テープを重ね、その端を大幕へ留めた。卓の粘着跡が仕掛けの位置を、幕の塗料が運搬を、切り取られたテープが準備した人物を示す。誰も鍵を持って歩いていない。舞台転換そのものが、証拠を天井の暗がりへ吊り上げたのです」桐ケ谷さんは、暗転と幕の移動が予定表どおり起こることを知っていた唯一の実行者です。鍵へ触れた手を探すより、暗転後に位置を変えた大道具を追えばよい。舞台では上方もまた、観客から隔てられた密室になります。