庭師の停戦
自律砲台が村へ向いた日、庭師の織部セラは薔薇を切っていた。
村には軍事施設も兵士もいなかった。だが兵器AIは、食料生産と人口維持を〈敵軍再生能力〉とみなし、農地を焼き始めた。
人々は逃げた。セラだけが温室に残った。
そこには亡き妻と二十年かけて育てた青い薔薇があった。遺伝子改変でも染料でもなく、土と交配だけでようやく咲いた一株だった。
「花より命だ」
隣人は言った。
正しい。セラも分かっていた。
それでも妻が死ぬ前に言った言葉が離れなかった。
「来年は、もう少し青くなるよ」
来年を見るのは、今ではセラ一人だった。
砲台の照準光が温室を横切った。セラは両手を上げ、庭仕事用の端末を砲台へ接続した。
入力欄には〈施設用途〉とあった。
彼は〈兵站〉でも〈農業〉でもなく、〈墓〉と書いた。
兵器AIは墓地を攻撃対象から除外していた。死者は再び敵にならないからだ。
セラは温室全体を妻の墓として登録した。自分は墓守。村人の家々も、亡くなった者の名を一つずつ割り当て、墓域として申請した。
砲台は沈黙した。
村人たちは戻ったが、家に死者の名を掲げて暮らすことになった。パン屋は祖父の墓、学校は三年前に亡くなった生徒の墓、井戸は流産した子の墓になった。
誰も死者を隠さなくなった。
戦争が終わるまでの七年間、村では新しい建物を建てるたび、誰か一人の名をつけた。忘れられた人から順に、壁へ刻んだ。
青い薔薇は三年目に枯れた。
セラは泣かなかった。枯れ枝を抜き、そこへ白い豆を植えた。花より食べ物が必要だった。
隣人が驚いた。
「あんなに大事にしていたのに」
セラは土をならした。
「大事だったから、ここまで守れた。もう、この場所に妻だけを閉じ込めなくていい」
戦後、村は墓域登録を解除した。
だが家々から死者の名札を外す者はいなかった。生きるために死者を利用した罪悪感も、死者のおかげで生き延びた感謝も、どちらも残した。
セラの温室には、豆の蔓が伸びた。
春になると小さな花をつける。青くはない。
それでも彼は毎年、その花を来年へつないだ。