当たり券を破る時刻

十八時三十八分、真柴蓮の携帯に通知が届いた。

〈四十九歳の君より。最終レース、七―三―十一。全額買え〉

消費者金融と知人への借金、合計八百四十万円。父から継いだ修理工場も明日差し押さえられる。券売機の前で赤い投票券を握ると、係員が叫んだ。

「締切二分前です」

蓮は残った十二万円を三連単へ入れた。七、三、十一の順にゴールし、払戻金は九百二十万円。借金返済画面で〈完了〉を押した瞬間、歓声が逆再生した。

〈七―三―十一。全額買え〉

「締切二分前です」

二度目は二口に分けた。三度目は現金を借り増した。差分に応じて払戻金は増えるが、十九時になると必ず十八時三十八分へ戻った。未来の自分は別のレース番号まで送り、数回先には一億円、十年先には競走馬のオーナーになっている写真を見せた。

〈成功条件:払戻金で工場の債権を買い取れ〉

借金を返すのではない。債権を安く買い、工場を担保に貸した側へ回る。未来の蓮は、同じように追い詰められた町工場へ金を貸し、返せない設備を手に入れて財産を増やしていた。赤い券は救済ではなく、最初の仕入れだった。

九回目、蓮は番号を買わなかった。十九時に戻る。

十回目、借金取りへ全額を渡した。利息の計算が合わず、戻る。

未来は、金で問題を解決する自分が成立するまで離さない。

十一回目。係員が叫ぶ。

「締切二分前です」

蓮は赤い券を買った。七、三、十一。結果を知っている手は震えない。発走直前、券を縦に裂き、さらに細かくちぎった。払戻しを受ける権利を自分で消す。

そのまま裁判所の電子窓口を開き、準備していた自己破産申立てを送信した。工場は競売、工具も車も手放す。信用情報は残り、父の看板も守れない。

未来から三度通知が来た。

〈勝てるのに負けるな〉

〈工場を残せ〉

〈貧しいまま終わるぞ〉

蓮は破産手続きの〈確定〉を押した。

「終わらせるために、負けるんだ」

七、三、十一の順で馬が駆け抜けた。紙吹雪のような赤い破片が足元を転がる。十九時一分。時間は戻らない。

携帯には当選通知ではなく、管財人面談の日程が届いた。蓮はそれを保存し、父の工場へ最後の片づけに戻った。