懸賞首は商品棚から動かない
闇市の競売台で、懸賞首ミコトは商品棚に鎖でつながれていた。
競売人は「殺せた者が賞金と遺品を総取り」と宣伝し、参加料まで取っている。最初に権利を買った賞金稼ぎラドガイは、客席へ向けて大剣を掲げた。
「逃げ足だけで十年生きた鼠だ。鎖につないだ時点で商品価値はない」
彼は見せ物として、まず耳を狙って投げ斧を放った。
ミコトは棚へ背を預けたまま、隣に並ぶ陶器の値札を読んでいた。斧は耳の直前で横へ曲がり、競売人の金庫を真っ二つにした。
客席が沸く。競売人だけが青ざめた。
ラドガイは笑われたと思い、魔力爆薬を大剣へ巻きつける。《皆殺し輪》は半径三十歩すべてを斬撃で埋めるため、鎖ごと避ける余地はない。
「今度は棚ごと消す!」
爆発と煙が競売場を覆い、商品が崩れる音が続いた。
煙が晴れる。
ミコトは値札を眺めた同じ姿勢で立っていた。鎖も棚も無傷だ。その周囲を除いて、高価な壺、偽造絵画、密輸宝石だけがきれいに切断されている。
契約台の魔法印が赤く光り、損害品を一つずつ読み上げ始めた。競売人は慌てて印を隠そうとしたが、参加者全員の腕にも同じ請求額が浮かぶ。殺せない商品へ攻撃権を売った者と、説明を読まず買った者。そのどちらにも逃げ道がない仕組みだけは、闇市らしく完璧だった。観客は次の入札をやめ、出口へ殺到した。だが契約印は扉より先に腕を締めつける。競売人が売ったのは懸賞首ではなく、自分たちの破産だった。
ラドガイが異常に気づいたのは、自分の大剣が二度ともミコトを敵として追跡しながら、最後の瞬間だけ「空き地」へ標的を書き換えていたからだ。
「何をした」
「何も。十年前から、攻撃が私を嫌っているだけです」
ミコトは千切れていない鎖を指で鳴らした。
「ところで契約書には、落札者が商品を傷つけられなければ損害を全額負担するとありますね」
背後で競売人が、壊れた品々の合計額を読み上げ始める。
大剣を握った賞金稼ぎは、請求額が賞金を越えたところで一歩退いた。