指輪に残る赤錆
砂嵐の中、バフラム・ケシュは金の指輪を舌先で舐めた。
塩の味がした。
敵が捕らえている妹ラーレの生存証として、使者が持ってきた指輪だった。こちらが返すのは敵王の従弟ロスタム。交換は日没、隊商宿の東門で行う。
指輪の表には孔雀の印。形は正しい。内側にだけ細い赤錆が浮いている。
ラーレの指輪は純金だった。砂に埋めても、血に浸しても錆びない。
これは鉄に金箔を貼った偽物だ。
「妹君が自ら外した」と使者は言った。
「どの指から」
「右の薬指だ」
ラーレは左利きで、弓弦から右手を守るため、指輪は左の小指にしていた。使者はそこまで知らない。
バフラムは偽の指輪を卓へ置いた。
「人質を見せろ」
「約束では、門前で初めて姿を見せる」
「なら交換はない」
使者の後ろでロスタムが笑った。捕虜になって三か月、髭は伸びたが、王族の傲慢さは痩せていない。
「妹は死んだのだろう」とロスタムが言う。「私を殺せばよい」
バフラムは短刀を抜き、ロスタムの耳へ刃を当てた。
「死んだなら耳一つで済まぬ」
使者の顔から色が消えた。敵王は従弟を寵愛している。偽の証を持たせたのは、ラーレを別の場所に置いたままロスタムを取り返すためだ。
「娘は生きている」と使者が言った。
「金の指輪を持ってこい」
「遠い砦にいる」
「では日没には間に合わぬ。ロスタムもここに泊まる」
東門の外には敵の騎兵が集まり始めている。交換後、そのまま門へ雪崩れ込むつもりだった。日没を逃せば、砂嵐が強まり、攻め口を失う。
バフラムは相手の時刻を人質にした。
半刻後、敵陣から早馬が来た。使者が新しい包みを開く。中には古い金指輪があり、内側へ弓弦の擦り傷が一本走っていた。
「本人はどこだ」
「門前だ」
東門の陰からラーレが引き出された。左の小指だけ白く、長く指輪をしていた跡がある。
バフラムは偽の指輪と本物を並べた。赤錆の輪と、傷だけの金。
「同時に歩かせる」
人質二人が砂の中を進む。ラーレは兄の前へ来ても足を止めず、宿壁の内側まで歩いた。ロスタムも敵陣へ戻る。
敵騎兵が前へ出ようとしたが、砂嵐が門前を覆い始めた。待たされた半刻が、攻め時を奪っていた。
バフラムは偽指輪を踏み、金箔ごと鉄を曲げた。
「東門を閉じろ。井戸門を開けろ」
命令が走り、帰還したラーレを迎える内門だけが開いた。