捨てられた予言の掃除当番
神託殿の厠係プナクルは、祭司たちが未来を水へ流す音を毎晩聞いていた。
神託が外れるたび、書き損じた予言紙を丸めて落とす。表では「神は誤らない」と唱え、裏では都合の悪い未来を厠へ捨てるのだ。
プナクルの技能は、笑い話の種だった。
【厠清掃:役目を終えて排出された不浄を処理し、流れを正常に戻す。】
百年祭の朝、神託殿の地下から黒い水が逆流した。
祭司たちは前夜も、祭りが雨になるという神託を捨てていた。晴天の式典を演出するためだ。だが空には黒雲が集まり、地下では百年分の否定された未来が出口を求めていた。
水には文字が浮かんでいた。
《王は転ぶ》
《塔は倒れる》
《都は今日、滅びる》
捨てられた予言が排水槽で絡まり、塊になって這い上がってきたのだ。紙の怪物が「滅びる」と唱えるたび、塔に亀裂が走り、空から石が落ちる。予言は信じられた数だけ現実になる。
祭司長は叫んだ。
「これは悪魔の神託だ! 兵よ、焼き払え!」
火を向ければ、乾いた予言紙が風に乗って王都中へ散る。プナクルは便器用の長柄ブラシを肩へ担ぎ、兵の前へ出た。
「それは神託ではありません」
「厠係が何を知る!」
「あなた方が、役目を終えたものとして流したでしょう」
怪物が《都は滅びる》の文字を口にする。プナクルはその口へ吸引棒を突き入れた。
技能が神殿の排水系すべてへ広がる。
外れた予言、隠した失敗、責任逃れの言葉。長年たまった不浄が、黒い渦となって吸引槽へ戻っていく。怪物は一枚ずつほどけ、ただの濡れ紙になった。
最後に残った《都は今日、滅びる》を、プナクルは二つに破って処理袋へ入れた。
塔の亀裂が止まる。
逆流していた水は一気に引き、透明な流れへ戻った。その底から、祭司長の署名入り廃棄台帳が現れる。百年分の偽装が、汚れよりはっきり記録されていた。
王は転ばなかった。塔も倒れず、都も滅びない。祭司長だけが逃げようとして濡れた床で転び、兵に取り押さえられた。広場には予言どおり雨が降ったが、人々はそれを笑って受け入れた。
プナクルがブラシを洗うと、柄に巻かれた職札から古い呼び名が水へ流れた。
【職業「神託殿厠係」が上位職「因果衛生官」へ書き換えられました】