採用率百パーセントの面接官

人材会社の砂子谷雛路は、採用ダッシュボードを見て微笑んだ。

〈内定承諾率 百パーセント〉

彼女が面接制度を変えて一か月。ついに一人も逃さない最強の採用担当になった。

上司が尋ねる。

「何を変えた?」

「候補者の心に寄り添いました」

「具体的には?」

「面接で“緊張しなくていい”と三回言います」

「それで百パーセント?」

「人は理解された場所を選ぶのです」

社内勉強会が開かれた。

雛路はホワイトボードへ〈共感・笑顔・決断〉と書く。

「給与を聞かれたら?」

「金額ではなく成長機会を語る」

「残業時間は?」

「熱中できる環境と表現する」

「質問へ答えていません」

「最強の面接は、質問の奥に答えます」

「表面にも少し答えてください」

役員は感動し、採用予算を二倍にした。

「来期は百人採る」

「私なら全員承諾させます」

「競合へ行く者は?」

「ゼロです」

「辞退者は?」

「概念としてなくします」

「強い言葉だ」

雛路は書籍の企画まで立てた。題名は『断られない採用』。

編集者が尋ねる。

「実績の母数は?」

「データ部へ確認中ですが、率は百です」

「人数より率が大事?」

「一滴でも純度百パーセントなら純水です」

「採用を飲料で説明するのは初めてです」

午後、役員会で成果発表が行われた。

「当社は候補者から選ばれる会社になりました」

社長が拍手する。

「素晴らしい。承諾者数は?」

雛路は画面を切り替えた。

「こちらです」

表示された数字は、一名。

会議室が静まった。

「一名?」

データ担当者が説明した。

「一次選考を通過した四十三名のうち、四十二名は内定前に辞退または不合格です。内定を出した一名は社内異動者で、承諾済みでした」

「私が面接した候補者は?」

「集計条件が〈内定発行済み〉なので、まだ入っていません」

「辞退者がゼロなのは?」

「内定を出す前に全員いなくなったからです」

社長が雛路を見る。

「百パーセントは嘘ではないな」

「はい」

「採用が成功したとも言えないな」

「……はい」

書籍の題名は変更された。

『母数を確認する採用』になった。