推薦状は皆の前で開ける

「封は切っていませんね。そのまま私へ渡しなさい」

 王立貴族学院の面接室。試験官の伯爵夫人が手を伸ばす。ロザリアの膝には、赤い蝋で封じた推薦状。

 前の人生の彼女は「もちろんです」と渡した。夫人は机の陰で封を開け、顔を曇らせた。中には『ロザリアは盗癖があり、入学に値しない』という偽文書。推薦者の公爵が書いたとされ、弁明すら許されなかった。

 十年後、公爵家の文書係になって分かった。公爵の正式な蝋印は薔薇の花弁が八枚。目の前の封には七枚しかない。伯爵夫人がすり替えたのだ。

「早く渡しなさい」

 同じ声、同じ伸ばされた手。

 前のロザリアは従った。

 今度は推薦状を胸元へ引いた。

「ここで、皆様の前で開封してください」

 夫人の指が止まる。

「推薦状は試験官だけが読むものです」

「学院規則第九条では、受験者が希望した場合、立会人二名の前で開封できるとあります」

 壁際の書記官と騎士が顔を見合わせた。前の人生で何度も書類を扱ったロザリアには、規則の場所まで分かる。

「信用していないの?」

「封を、です」

 ロザリアは赤い蝋を光へかざした。

「公爵家の薔薇は八弁。これは七弁です」

 面接室の空気が凍る。

 夫人が奪おうとした瞬間、騎士が間へ入った。書記官が立会人として封を割る。中から現れたのは、予想どおりの偽告発状。そして紙を火に透かすと、伯爵家の透かし紋が浮かんだ。

「これは……」

「公爵家の紙ですらありません」

 廊下から本物の公爵が入ってくる。ロザリアが事前に送った確認状が、今朝届いていたのだ。彼は八弁の印を押した新しい推薦状を掲げた。

 夫人の胸章が警備魔法で赤く染まり、扉が閉じる。前の人生ではロザリアへ向けられた拘束鎖が、今度は夫人の手首へ巻きついた。

 書記官が新しい推薦状を読み上げる。

「『ロザリア・セルンを、学識と胆力において首席候補として推薦する』」

 面接用の不合格印は、机の端で乾いたまま押されなかった。

 代わりに公爵が、金の入学印を彼女自身の手へ渡した。