敗北の型紙を裁ち落とす

型紙職人マルファは、軍議の机に触れただけで鞭を受けた。

王国最高の予言布には、明日の戦場が模様として浮かんでいる。敵軍の旗が城壁へ立ち、味方の兵は全員倒れていた。

「敗北は確定した。若い王女を差し出して講和する」

宰相はそう決め、異を唱えた者を地下牢へ送った。

マルファは予言布を裁断するため呼ばれたにすぎない。縁を整え、敗北の場面を額へ入れろという命令だった。

彼女の技能は、仕立ての準備にしか使えないと蔑まれている。

【固有スキル《型紙裁断》:完成形の線に沿い、仕立てに不要な部分を切り離す】

夜明けを待たず、敵軍の攻撃が始まった。地下牢へ送られた将軍たちの代わりに、宰相の私兵が城門を守るふりをして閂へ手を掛けていた。

予言どおり城壁の前に巨大な召喚陣が開き、空を覆うほどの槍が現れる。守備隊は未来を見せられて戦意を失い、宰相は王女を縛って門へ運ばせた。

マルファだけが、額装前の予言布を見つめていた。

布には奇妙な余白がある。

敵の勝利を囲む線だけ、他の未来より太い。予言者が見た必然ではなく、宰相が敵国から受け取った魔力で後から足した縫い代だった。

服を作る者なら知っている。縫い代は完成品には残らない。形を作る途中で必要でも、最後には内側へ隠すか、切り落とすものだ。

宰相が槍雨を落とす合図を送る。

マルファは大鋏を予言布へ入れた。

王女の処刑も、開門も、敵旗の立つ城壁も、一続きの太線に沿って布から切り離される。

空の槍が輪郭を失い、紙片のように風へ散った。敵軍の召喚陣も半分だけ残された型紙となり、兵士を一人も通せず閉じる。

切り落とされた布片には、宰相が敵王から金貨を受け取る場面まで続いていた。

王女の縄を解いた近衛兵が、それを全国の記録水晶へ映す。

宰相は「未来を壊した罪」を叫んだ。

マルファは残った予言布を掲げる。そこには、王女が自ら門を開き、降伏した敵兵を受け入れる新しい完成図が浮かび始めていた。

【職業《型紙職人》が上位職《運命裁断卿》へ書き換わりました】