旅人宿のスープ券
街道町セリオには大きな穀倉があったが、冬になると日雇い労働者だけが飢えた。
住民名簿に家を持つ者しか配給を受けられず、橋修理や荷運びで町を支える旅人は対象外だった。町守サフィが宿場を巡ると、空腹の職人が翌朝の仕事を断られていた。
「名簿ではなく、町で過ごす一日を数えましょう」
サフィは紙のスープ券を作った。町税を納める家には家族人数分。街道の雪かき、橋の修理、薪割りを一刻すれば二枚。仕事のできない病人には宿主と治療師の署名で一日一枚。券一枚で、共同食堂の濃い麦スープ一椀。
費用は宿泊税を一泊につき銅貨一枚だけ上げて賄う。徴収額、麦の購入量、使われた券の枚数を食堂の壁へ毎日記す。町守や役人も食べるなら券が必要だ。
宿屋組合は反発した。
「旅人のために、なぜ宿が払う」
「空腹で倒れた旅人を無料で泊め、仕事の遅れを負担しているのも宿です。銅貨一枚と、今の損失を比べてください」
計算した組合長が、最初に賛成印を押した。
雪が降った翌朝、旅人の石工が橋の氷を砕き、町の青年が隣で雪を運んだ。宿の女将たちは余った野菜を食堂へ持ち寄り、粉屋は券一枚で買えるパンを焼いた。誰かを哀れんだからではない。働けば受け取り、働けない日は皆の税で支える規則が明らかだったからだ。
制度が始まった翌日、熱を出した旅芸人が券を持たず食堂へ来た。働けないと知った宿主と治療師が、その場で署名する。
組合長は一瞬眉を寄せたが、壁の会計を見た。病人用の麦は最初から予算に含まれ、誰かの取り分をこっそり削るわけではない。
旅芸人は「治ったら雪かきをする」と言った。
「それは次の券の分だ」と料理人は笑い、今日の椀を渡した。
夕刻、昨日仕事を断られた職人が、濡れた券を一枚差し出した。料理人は名前を聞かず、最初の椀を満たす。
食堂の入口に新しい看板が掛かった。
――町にいる者は、町の冬を越す者。
湯気の向こうで、住民と旅人の列が一つにつながった。壁の数字だけが、一椀ごとに正しく一つ減っていった。