星位盤は真夜中を指さない
冬至夜会で、敵国王子との密会を示す外套が掲げられた。
「昨夜零時、旧天文台へ転移したな」
婚約者ヨルン公子は、アルベルティナの紋章が縫われた外套を踏む。
「敵と通じた女との婚約を破棄する」
外套は確かに彼女の寸法で、家紋の刺繍も精巧だった。密会の噂は数日前から流れ、ヨルンは彼女の説明を聞くたび「信じている」と優しく頷いていた。その優しさが、今夜の断罪を最も痛くした。信じていたのではない。反論を集め、どこを塞げば逃げられないか確かめていたのだ。
会場には、密会相手とされた和平使節ジャスパーも招かれていた。貴族たちは彼とアルベルティナを交互に見て、すでに禁断の恋の結末を楽しんでいる。彼女は見世物の筋書きに一言も足さないと決め、彼にも証言を求めなかった。
「ジャスパー殿下。星位盤だけ、お貸しください」
彼は胸の円盤を外し、無言で差し出す。星位盤は転移時に外套へ付着した星塵を読み、出発地点と時刻を一度だけ夜空へ再現する証拠魔法だ。
アルベルティナが外套の裾を盤へ置く。天井に星図が開き、針は零時ではなく午後十一時五十八分を指した。出発地点として浮かんだのは、彼女の塔ではない。ヨルンの私室だった。
さらに星の線が、旧天文台ではなく夜会場裏の衣装庫へ短く伸びる。外套は密会に使われず、証拠として運ばれただけだった。
「私の部屋に保管していたからだ。君への贈り物だった」
「贈る前の外套を、わたくしが着て密会したと告発なさったのですか」
ヨルンは黙り込み、やがて外交上の誤解を避けるため婚約は継続すると言い出した。
「誤解ではなく、あなたが作った筋書きです」
アルベルティナは外套から自家の紋章を切り取り、彼の前へ置いた。
「破棄を受諾します。和平を語る方が、最も近い相手を信じられないのなら、婚姻に意味はありません」
元婚約者に背を向ける。ジャスパーが、条約の起草者として正式に交渉卓へ迎えたいと手を差し出した。彼女は噂の密会ではなく、公の未来を選び、その手を取った。