晴れの日しか知らない英雄

天候読みのエイダンは、晴天の日ほど嫌われた。

青空を見上げて遠征を止め、風の匂いを嗅いで祭りの旗を下ろさせる。何も起きなければ、臆病者が騒いだだけになる。中止された危険は討伐記録へ残らず、貢献度は零%だった。

ギルド長リンドルは、快晴の広場で解雇を告げた。

「何も起こらない日に、何もさせない男だ。数字こそ公平だ」

英雄たちは笑い、延期されていた凱旋祭を始めた。エイダンは観測塔の鍵を返し、街門へ向かった。

空には雲ひとつなかった。

だからこそ、彼は足を止めた。風が旗を揺らしていないのに、魔力灯の炎だけが東へ傾いている。空が静かなのではない。巨大な魔力嵐が周囲の風を吸い込んでいた。

エイダンは解雇札を鐘楼の衛兵へ見せた。

「もうギルドの命令は出せません。だが鐘を鳴らしてください」

衛兵が迷う間にも、空の青が薄い硝子のようにひび割れた。エイダンは自分で鐘綱を引き、祭りの屋台を石造りの倉庫へ移させ、冒険者には魔法を使わず接地杭を打つよう叫んだ。

リンドルは祭りを台無しにするなと怒鳴った。次の瞬間、透明な雷が広場を走る。杭へ逃げた光は地中へ消え、倉庫へ入った人々は無事だった。

嵐が去ると、英雄たちは自分たちが街を守ったと歓声を受けようとした。だが観測塔の天候核が、初めて「起きなかった被害」を計算した。エイダンが止めた遠征、下ろした旗、閉じた門。その判断がなければ失われていたものが、空いっぱいの文字になる。

リンドルは乾いた声で言った。

「観測係へ戻れ。今後は意見も聞こう」

「意見ではなく、出撃を止める権限が必要です」

祭りの人々は、無事な屋台や眠る子どもを見回した。何も失われなかったため、英雄譚にはならない。だが誰もが、エイダンの鐘がなければそこに何が残らなかったかを想像できた。

彼は観測塔をギルド長の命令から独立させた。空が晴れていても出撃を止められ、その判断で損をした者が観測員を処罰できない規程を置く。

リンドルが祭りの延期分を請求しようとすると、出撃申請と同じ窓口へ並ぶよう表示された。

《災害回避・真正査定》

旧評価 零% → 真値 九十八%

総合貢献順位 首位:エイダン

役職更新 天候読み → 出撃許可官

旧ギルド長リンドル → 出撃申請者