暖炉石は眠らない

極北遠征隊の最初の夜、天幕の中で水が凍った。

「暖炉石をもっと入れろ!」

 隊長ガレオンが寝袋から怒鳴る。中央の籠には赤い魔石が十二個。どれも触れないほど熱いのに、天幕の端では兵士の睫毛へ霜がついていた。

 昨日追放された荷物持ちテッサは、暖炉石を三個ずつ四組に分けていた。熱い石を中央へ置き続けるのではなく、一刻ごとに外周へ移し、冷えた石を火皿で再加熱する。そうすれば布全体が乾き、結露も凍らない。

 新しい係は「熱い物は真ん中」と十二個を積み上げた。交代表を見つけたものの、細かすぎると焚き火へ投げた。テッサが夜通し起き、一刻ごとに石を抱えて歩いていたことを、誰も当番だとは認識していなかった。中央だけが灼熱になり、上昇した蒸気は天幕の端で氷膜へ変わった。入口は内側から凍りつき、朝になっても開かない。

「石は足りているのに、なぜ寒い!」

「動かす人がいないからです」

 答えた斥候は、剣で氷を割ろうとして刃を欠いた。

 遠征隊は氷熊を探す前に、天幕から脱出するだけで昼まで費やした。食料袋も壁の氷へ張りつき、朝食の干し肉を剥がすには斧が必要だった。隊長が誇った最新装備は、運用する者を失って氷の箱になった。

 同じ夜、テッサは雪原の小村で、病人の家を回っていた。

「この石は窓辺へ。青い印が消えたら次の家へ渡してください」

 老人ヌークは首を傾げた。

「一軒に全部置かなくてよいのか」

「熱を独占すると壁が濡れます。石を巡らせれば、十二軒の布団を乾かせます」

 石には次に渡す家の印も付けられ、子どもたちが犬橇で順番に運んだ。テッサ一人が眠っても、温かさは巡り続ける。

 翌朝、村では凍った寝具が一枚もなかった。咳をしていた子どもも、乾いた毛布の中で眠っている。

 ヌークは村会でテッサを《冬熱巡回士》に任命し、石の鍵と犬橇を預けた。

「力持ちは石を運ぶ。だが君は、温かさを運んでいる」

 昼、遠征隊の鷹が凍りついた書簡を落とした。

『暖炉石を回しに戻れ。命令に従えば遠征隊員へ復帰させる』

 テッサは次の家へ渡す石を犬橇に積み、返書を鷹の足へ結んだ。

『雪原へ荷を捨てられた時点で、遠征隊との保温管理契約は終了しています』