最初から入ったチェック
チェック欄には、最初から印が入っていた。
動画配信サービスの解約ページ。デザイン会社で飯島綾芽が最後に担当する画面だ。別のタブには、まだ送信していない退職届が開いていた。利用者が解約理由を選び、最後にボタンを押す。その下に、〈お得な情報をメールで受け取る〉という小さなチェック欄がある。
チェックは最初から入っていた。
社内ではそれを「親切な初期設定」と呼んでいた。けれど先月の利用者テストで、高齢の女性が「外し方が分からないから、解約自体を諦める」と言った声を、綾芽は忘れられなかった。その映像は、報告会では使われていない。
さらに読み上げ機能で確認すると、欄の説明は読まれず、「チェック済み」とだけ聞こえる。綾芽が修正を求めると、プロダクト責任者は首を振った。
「解約者を一人でも戻す施策だ。法務確認も通っている」
「選んだように見せて、最初から選ばせていません」
公開まで三十分。綾芽はチェックの初期値を外し、説明文を読み上げ対象へ変更した。解約ボタンと継続ボタンの色も同じ強さにする。責任者が元へ戻そうとしたため、操作録画を二本並べた。見える人は三秒で外せる。読み上げ利用者は、欄の存在を知るまでに四十秒かかり、外す方法も分からない。
隣の新人、颯太が小声で言った。
「数字が落ちたら、僕たちの評価ですよね」
「落ちるのは、だまして残していた数字。設計の評価に混ぜないよう、記録を分けよう」
綾芽は公開前後の指標を、継続率ではなく同意率として測る項目を追加した。責任者は不満を残したが、法務へ再確認すると、明確な同意を取る修正案が採用された。
公開ボタンが押され、空欄のチェックが画面に現れた。
責任者は、同意率が下がった場合の担当者欄へ綾芽の名を入れた。
綾芽は、変更前の数値を〈同意〉ではなく〈初期選択を含む〉と注記し、比較条件を分けた。責任を持つなら、まず数字の名前を正しくしたかった。
記録を保存して退職届をアップロードし、市民向けサービスを作る小さな開発チームの招待画面を開く。
そこには最初から選ばれた項目が一つもなかった。綾芽は自分で〈参加する〉にチェックを入れた。