月曜日の鞄

日曜の午後六時、宇田川瑠衣は、金曜のままの通勤鞄を玄関で見つけた。

見つけた、というのは変な言い方だった。朝からそこにあった。ただ、昼過ぎまで眠り、起きてからもベッドで動画を眺めていたため、夕方になって初めて存在がこちらを向いた。

鞄の口から、折れたクリアファイルと充電ケーブルがのぞいている。金曜の退勤前、上司から月曜朝までに確認してほしい資料が届いていた。休日に見る義務はない。それでも「少し目を通しておけば楽」という考えを、土曜から何度も持ち越していた。

スマートフォンには、社内チャットの未読が四件。通知の文章は表示されない設定なのに、数字だけで胸が狭くなった。

瑠衣は鞄からノートパソコンを出し、テーブルへ置いた。電源ボタンへ指を載せる。今から一時間だけ仕事をすれば、寝て終えた休日にも意味ができる。月曜の自分も助かる。

だが、黒い画面に映った顔はまだ眠そうだった。仕事を始めれば、一時間で終わらないことも知っている。

瑠衣は電源を入れず、鞄の中身を確認した。社員証、財布、折り畳み傘。空になった飴の袋だけ捨て、充電ケーブルを巻く。クリアファイルの折れは直らなかったが、資料は入っている。

冷凍ご飯を温め、海苔を一枚巻いて食べた。月曜の服は選ばず、目覚ましだけ七時に設定する。社内チャットの数字は四のまま残した。

休日を仕事で埋め直せば、眠ったことを許せる気がしていた。けれど月曜日の仕事は、月曜日の瑠衣が引き受けるものだ。

鞄の底から、金曜に買ったお茶のレシートも出てきた。退勤時刻は二十二時十一分。瑠衣はその数字を見て、今日の長い睡眠が突然正しくなったとは思わなかった。ただ、理由のない怠けと決めつけるには、金曜の夜が少し遅かったことを思い出した。レシートは捨てた。

鞄のファスナーを閉める音は、仕事を始める音ではなく、今日はもう開けないという合図になった。瑠衣は玄関の照明も消した。

玄関へ鞄を戻す。中に入れたのは準備だけで、労働ではない。今日は月曜へたどり着くための鞄があれば、それでいい。