期限の長い箱を待つ

医療材料卸の営業・三ケ田結に、総合病院の薬剤部から緊急注文が入った。

「消毒用資材を三百箱。明朝までに全部ほしい」

院内の改修工事で使用量が増え、在庫が想定より早く減ったという。倉庫には三百箱あった。受注すれば大型案件になる。

結はロットを確認し、出荷を止めた。倉庫の品は使用期限まで四か月。病院が通常使う量なら、三百箱を使い切るまで半年かかる。全部納めれば、後半が期限切れになる。

薬剤部の担当者は「保管しておくから構わない」と言った。

結は病院の棚を見せてもらった。新しい箱は手前から積まれ、古い箱が奥へ押し込まれている。緊急時に一斉納品すれば、期限の短い品がさらに見えなくなる。

「明朝必要なのは何箱ですか」

工事区画と一日の消費量を確認すると、最初の三日で必要なのは四十八箱だった。

出荷担当は在庫を減らしたいから古い箱を三百すべて出したいと言った。結はトラックの積付表まで指定し、赤札の五十箱を扉側へ置かせた。奥へ積めば、夜間の受入担当が新しい品から降ろし、棚の順番がまた逆になる。

結は短期限のロットから五十箱だけ今夜届け、残り二百五十箱は翌月製造の長期限品を分納する案に変えた。さらに棚を二列に分け、今夜分には赤い札を付ける。使用期限の早い方から取る手順を、納品書にも大きく記した。

病院側は、発注を分けると事務処理が増えると嫌がった。結は注文番号を一つのままにし、納品日だけ二回へ分けるよう社内の事務へ頼んだ。売上になる時期は遅れるが、廃棄費用も医療現場の混乱も減る。

「営業なら多く売りたいでしょう」

担当者が言った。

「使われない箱は、売れた箱ではありません」

午前零時前、五十箱が搬入口へ届いた。結は赤札が外側を向いていることを一箱ずつ確認した。

病院を出ると、別の診療所から留守電があった。

〈同じ資材を十箱。できれば期限の長いものを〉

結は車内で倉庫のロット表を開き、今度は少量だからこそ古い在庫を混ぜないよう、出荷棚を指定した。