松明持ちは影竜の腹を照らす
松明持ちミレグは、勇者隊の名簿では装備品と同じ欄に書かれていた。
暗い通路で先を照らし、戦闘が始まれば壁際へ下がる。光魔法を使える賢者からは「油を食うだけの旧式」と呼ばれ、迷宮の報酬も受け取れなかった。
技能も、明るい場所では何も起こらない。
【職業技能《暗所照明》:一つの暗所を指定し、松明の火が続く間、その内部すべてを照らす。】
最下層で待っていた影竜には、剣も魔法も効かなかった。
全身が完全な闇でできており、斬れば刃が沈み、火球を撃てば炎ごと飲み込む。影竜は勇者を一口で呑み、次に賢者と聖女まで腹の闇へ引きずり込んだ。
床には三人の武器だけが落ちる。
「松明係まで食う価値はない」
影竜は人の言葉で笑い、王都へ続く門を開こうとした。腹の中から、勇者のかすかな叫びが聞こえる。
ミレグは松明を掲げた。
洞窟は暗くない。影竜自身が光を吸うため、周囲はむしろ松明で見えている。
だが、光が一度も届いたことのない場所がある。
影竜の腹の中だ。
生き物の体内を部屋と呼ばない決まりもない。内部が闇なら、それは一つの暗所である。
「照らす場所を、間違えていただけだ」
技能の対象を影竜へ定める。
松明の小さな火が揺れた瞬間、竜の輪郭が内側から金色に透けた。腹の奥、心臓、骨、飲み込まれた三人まで、夜の窓へ灯した家のようにはっきり浮かぶ。
闇でできた竜に、内部から逃げ場なく光が満ちる。
影竜は叫ぶ暇もなく薄くなり、最後には床へ落ちる一枚の影になった。勇者たちは光の中から吐き出され、無傷で転がる。
賢者が新しい光魔法の功績だと言おうとしたが、彼の杖はまだ床に落ちたままだった。
ミレグは松明の火を吹き消す。
影は、もう戻らなかった。
勇者は落ちた聖剣を拾うより先に、ミレグの油壺を持ち上げた。賢者も黙って替え芯を差し出す。これまで消耗品扱いだった火を絶やさないため、三人が順番に荷を持った。迷宮の帰り道では、先頭を歩くミレグの後ろへ、英雄たちの影が正しくついてきた。
【職業《松明持ち》が上位職《闇内照明聖》へ書き換わりました。】