柿の白和え
叔母の奈々緒は、柿を白和えにする。
甘い果物を豆腐と胡麻で和える料理を、姪の穂澄は子どもの頃から不思議に思っていた。
今年、叔母の店を手伝い、初めて自分で作る。
豆腐を水切りし、白胡麻をする。味噌、砂糖、薄口醤油。最後に固めの柿を角切りにして混ぜる。
「熟した柿じゃだめ?」
「崩れて全部甘くなる」
店の小鉢として出すと、客は珍しそうに注文した。
一人の老婦人が、食べたあと「昔、母が作った」と言った。作り方を訊かれ、穂澄は叔母の分量を説明する。
「うちは胡麻じゃなく胡桃だった」
家庭ごとに違うらしい。
閉店後、余った白和えへ砕いた胡桃を足してみた。香ばしさが増し、柿の甘さが少し遠くなる。
奈々緒は一口食べ、「こっちもあり」と言った。
翌日から、胡麻と胡桃の二種類を小鉢へ出した。老婦人がまた来て、胡桃のほうを選ぶ。
穂澄は厨房からその横顔を見た。
晩秋、柿が柔らかくなると白和えは終わり。最後の一個はそのまま二人で食べた。
果汁が指へ垂れ、白和えよりずっと甘い。すり鉢には胡麻と味噌の匂いが残り、短かった小鉢の季節を静かに香らせていた。
翌年、老婦人が胡桃を一袋持って店へ来た。故郷から届いたものだという。三人で殻を割り、白和えを作る。奈々緒は胡麻、老婦人は胡桃、穂澄は両方を少しずつ入れた。どの家の味でもない三つ目の小鉢ができる。客は「香ばしい」と言っただけで、由来を知らない。閉店後、三人で残りを食べた。柿の橙、豆腐の白、胡桃の茶色。すり鉢から立つ香りには、昔の台所と今日の店が、分けられないほど細かく混じっていた。
老婦人は胡桃の殻を一つ、記念に持ち帰った。穂澄も一つを厨房の棚へ置く。翌秋、殻を振ると中で小さく音がした。去年の香りはなくても、三人の小鉢を思い出すには十分だった。
棚の胡桃殻へ秋の日が当たると、厨房に小さな影ができた。穂澄はその影のそばですり鉢を洗い、次の柿を待った。