校庭に秋をつくる

柊木蓮司は、筋肉が動かなくなる病気のため、四十九歳で意識を学校サーバへ移した。

彼が担任になったのは、肉体を失った子どもや、遠い宇宙居住区から通う子どもが集まる仮想学級だった。校舎は安全で、気温は二十三度。転んでも痛くなく、給食を残しても腐らず、窓の外は一年中晴れていた。

授業の成績は完璧だった。

それなのに子どもたちは、何年たっても同じ顔で同じ席に座り、卒業したがらなかった。失敗は巻き戻せ、嫌な記憶は非表示にできる。昨日と今日の違いがなければ、大人になる理由もなかった。

蓮司は管理AIへ季節の導入を申請した。

「気温変動は集中力を低下させます」

「落ち葉を一枚だけ」

「腐敗物は衛生基準に反します」

蓮司は自分の記憶から、故郷の秋を作った。校庭の銀杏が黄ばみ、風が吹くたび葉が落ちた。子どもたちは初めて、元に戻らないものを見た。

一人の少女が落ち葉を拾い、保存ボタンを押した。しかし葉は茶色く縮み、指の中で崩れた。

「先生、壊れました」

「それが秋なんだ」

子どもたちは怒った。消えるものを見せるのは残酷だと言った。それでも翌日、全員が校庭へ出た。葉を集め、山を作り、最後には自分たちで燃やした。煙は匂いの記憶だけを残して消えた。

冬が来ると、卒業したいという生徒が現れた。

仮想世界の外へ出るわけではない。別の区画へ移り、自分で時間や姿を選ぶだけだ。それでも蓮司には、教室から一人いなくなることが耐え難かった。教師である自分の意味まで減る気がした。

卒業式の日、彼は巻き戻し機能に手を伸ばした。

そして、止めた。

「行ってらっしゃい」

空いた席を削除せず、そのまま残した。

次の春、新しい生徒が来た。窓から校庭を見て訊いた。

「あの木、また葉っぱが落ちるんですか」

蓮司は机の引き出しから、去年の落ち葉の欠片を出した。

「同じ葉は二度と落ちない。でも、秋はまた来るよ」

永遠の学校で、彼が教えたかったのは知識ではなかった。

終わるから次へ行けるという、時間の使い方だった。