株主優待のピクニック

 鷹城由海と黒江田智樹は、春と秋に「優待消化遠足」をする。

 二人とも会社員時代の貯蓄を投資へ回し、今は配当と少しのアルバイト経験の残金で、働かず慎ましく暮らしている。

 使い切れない食事券や商品券を持ち寄り、公園で一日過ごすのが恒例だった。

 由海はパン屋の券でサンドイッチを買い、智樹は飲料会社の券で野菜ジュースを交換した。

「健康的」

「袋のポテトチップスもある」

「優待だから仕方ない」

「株主の責任として食べる」

 二人は芝生へ敷物を広げた。

 平日の公園は空いていた。

 幼児を連れた親子、犬の散歩、ベンチで将棋をする老人。

 二人は桜の木の下へ座ったが、花はもう散っている。

「時期を外した」

「その分、場所取り不要」

 由海はハムサンドを半分に切った。

 食後、智樹が折り畳み式の将棋盤を出した。

「それも優待?」

「実家の押入れ」

 二人ともルールは知っているが、強くない。

 三手目で由海が駒の動きを間違え、五手目で智樹が自分の王の位置を見失った。

「もう詰んでる?」

「人生?」

「将棋」

「人生なら、昼寝中」

 対局は途中でやめ、盤の上へ菓子を並べた。

 王将の位置に塩せんべい、飛車の位置にチョコ。食べたものから盤が空く。

「これは何という競技?」

「資産取り崩し」

「現実的」

 午後、風が強くなり、レシートが一枚飛んだ。

 二人で追いかけ、戻る途中に大きな木の根へ座った。

 由海が魔法瓶から玉葱スープを注ぐ。

 粉末だが、湯気に胡椒と炒めた玉葱の匂いが立った。

「優待がなくても、来る?」

 智樹が訊く。

「弁当を自分で作れば」

「それは労働」

「卵を焼くだけ」

「軽作業」

 二人は来年の遠足を、卵焼きの出来次第で決めることにした。

 帰り、使い切れなかった券が一枚残った。

 期限はまだ三か月ある。

「次の遠足まで持つ?」

「来週、駅前でプリン」

「遠足じゃない」

「徒歩十五分」

「小旅行」

 敷物を畳むと、芝生の匂いが布へ移っていた。

 花のない桜の枝には若い葉が光り、空の将棋盤には塩せんべいの粉が残る。

 働かない二人の休日は、使い切れない券と時間を少しずつ分け合い、温かなスープ一杯ぶんだけ豊かになった。