欠席で返る招待状

礼拝堂の裏に、亡くなった人専用の郵便箱があった。

結婚式の招待状を入れると、死者が「出席」か「欠席」に印を付けて返す。

ただし、その人のために空席を用意している間は届かない。

花嫁は、亡くなった母の席を最前列へ作った。

白い花、母の写真、使っていたハンカチ。

招待状を郵便箱へ入れても、毎朝そのまま戻ってくる。

「来てほしいのに、なぜ返事をくれないの」

花嫁は写真へ怒った。

母は、娘が結婚相手を紹介する前に亡くなった。

式場も衣装も、母なら何と言うか想像して選んだ。

相手は、

「君が望むなら席を残そう」

と言ったが、隣へ座るたび写真へ気を遣っていた。

式の一週間前、亡き母の姉が訪ねてきた。

母と長く疎遠だった叔母だ。

若い頃の相続争い以来、葬儀にも来なかった。

「招待されていないのに、ごめんなさい」

叔母は、母が預けた小箱を持っていた。

中には、娘が幼い頃の写真と、結婚式用に積み立てた通帳。

母は姉へ、

「私が間に合わなければ渡して」

と頼んでいた。

花嫁は腹が立った。

生きているとき仲直りしなかった二人が、死後だけ協力している。

「母の席へ座りますか」

皮肉で言うと、叔母は首を振った。

「妹の代わりはできない。私の席なら、招かれたら座りたい」

その夜、花嫁は母の写真を最前列から外した。

家へしまうのではなく、控室へ置く。

空いた席には叔母の名札を置いた。

翌朝、招待状が返ってきた。

母の字で「欠席」に丸がある。

余白へ一行。

「あなたの隣を、死んだ人で満席にしないで」

花嫁は泣き、笑った。

母なら言いそうな、少しきつい文だった。

式当日、叔母は最前列に座った。

結婚相手の家族とも話し、母の失敗談をいくつも披露した。

写真は控室にあり、花嫁は支度の前だけ一人で見た。

「行ってきます」

返事はない。

それでよかった。

披露宴では、母のための料理も空席も用意しなかった。

代わりに通帳の一部で、来てくれた人全員へ小さな菓子を配った。

亡き母は欠席した。

祝っていないという意味ではない。

生きている人が座る席を空け、自分は思い出の中から見送るという、母なりの出席の仕方だった。