止まった一秒を越える隊列
時術師エリアンは、仲間を一秒だけ止めるつもりだった。
迫る刃を避けるための停止術。だが魔力が暴走し、斧戦士ルドガーは一時間、氷像のように動かなくなった。敵は退いたものの、指一本動かない仲間を前に、エリアンは術を解けずに泣いた。
解呪師プリムラと斥候カゼトが補助陣を張り、ようやく時間は戻った。ルドガーは倒れ込み、息を吹き返した。
一秒の術は、ルドガーが『俺なら受け止められる』と訓練相手を買って出て完成したものだった。プリムラは術式を整え、カゼトは発動の合図を考えた。三人で支えた術を、最後に壊したのは自分だとエリアンは思った。
ルドガーが目覚めた直後、最初に動かした指はエリアンの袖を掴んだ。だが意識が混濁した反射に違いないと、彼はその手をそっと外してしまった。
帰還後、彼は診療所へ。プリムラは術式庁へ向かい、カゼトは宿へ走った。
エリアンは一人でギルドの時計塔に残った。次の瞬間には、資格剥奪と除名の通知が届くだろう。
以前も暴走を起こし、師匠から「お前の時間に他人を巻き込むな」と追放された。
彼は隊章を机へ置き、時計の針を見つめる。
扉が開き、片足を引きずるルドガーが診療所から戻った。大斧を机へ横たえる。
「一時間も持たせた罰だ。治るまで預かれ」
プリムラは術式庁の封書を開く。そこにあったのは資格剥奪ではなく、三人の監督下での再訓練命令だった。
「監督者欄、全員で署名してきた」
カゼトは宿の鍵を四本、時計の文字盤の上へ並べる。一室ではなく、隣り合う二部屋を借り直したらしい。
「暴走したら壁越しでも叩き起こせる」
エリアンは隊章を押し返す。
「僕の術で、また誰かの時間を奪う」
ルドガーは大斧から手を離した。
「なら俺たちが、お前を一人で術式に向かわせない」
プリムラは止まっていた懐中時計をエリアンに渡し、カゼトは帰りの馬車へ四人分の荷を積む。
馬車の御者台にも、誰か一人を残す余白はなかった。
時計塔の鐘が鳴った。
失われた一時間は戻らない。けれどその先の時間には、三人とも同じ隊列で残っていた。