母だけに見せるはずの初仕事
《家族限定リンクが検索欄に出てる。設定ミス?》
《綿貫佐久、倉庫係の初出勤を世界配信してどうする》
《後ろの次元裂け目、本物なら新人は逃げろ》
母へ無事を見せるための限定配信は、共有設定を一つ間違え、誰でも見られる状態になっていた。
綿貫佐久は気づかず、深層倉庫で在庫札を数えている。棚の向こうでは《空喰い》が開いた裂け目から腕を伸ばし、作業員と荷箱を別空間へ引きずり込んでいた。
戦闘班は裂け目の内側へ吸われ、残った佐久の手には白いチョークしかない。
佐久の職業表示は《倉庫補助》。攻撃力は一、魔力も一で、採用時には「棚番号を間違えなければ十分」と言われた。だが彼は九人の名札、荷箱の数、裂け目へ消えた棚の位置まで覚えている。倉庫で一つでも所在不明を出すことを、彼は許せなかった。
《空喰いは攻撃すると裂け目が増える》
《すでに作業員九人が半身を呑まれてる》
《倉庫技能で封印できる規模じゃない》
佐久は震える手を制服で拭いた。
床へしゃがみ、裂け目と伸びた腕と九人全員を囲むように、チョークで四角を一度だけ描き切る。
「検品前につき、開封禁止」
最後の線がつながった。
空間の裂け目が透明な包装膜に覆われる。外へ伸びていた腕は箱の内側へ押し戻され、呑まれかけた九人だけが検品対象外として弾き出された。四角の中央には、黒い亀裂を収めた一辺二メートルの荷箱が残る。
側面へ自動で赤札が貼られた。
【内容物:未確認/開封には管理者三名の承認が必要】
《次元災害を未開封品にした》
《技能《梱包区分》、線内の危険物を規格内へ圧縮封印》
《九名の生体ログ正常。空喰いの反応は箱内で停止》
《チョークは百円ショップ製、魔道具反応なし》
佐久はようやく視聴者数に気づき、顔を真っ赤にした。
「母さん以外も、見ていますか」
《百二十万人ほど》
《初仕事としては十分です》
《倉庫係が世界を棚卸しする日》
箱から弾き出された九人は、佐久を置いて先に逃げようとした先輩たちだった。最年長の班長が新人用の腕章を外し、自分の特級腕章を佐久へ差し出す。
《封印箱の内部時空、完全停止》
《九名の欠損・汚染反応なし》
佐久は受け取らず、「腕章より、検品を手伝ってください」とチョークの粉を払った。
コメントの最後に、母のアカウントから一言だけ届く。
《お弁当、ちゃんと食べなさい》
その上へ管理局の通知が重なった。
【綿貫佐久を特級封印作業者として緊急認定】