毒まで薄切りに
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王都料理人ギルドの受付係ベルカは、食材の持ち込み審査を担当している。
北の岩塩、南海の魚、迷宮産の茸。香りを嗅ぎ、重さを量り、泥つきの根菜には洗浄札を貼る。白い前掛け姿の彼女を、剣士だと思う者はいない。腰にあるのも、短い菜切り包丁だけだ。
若い皿洗いのオミルは、閉館後に床へ散った豆を拾っていた。
そこへ宮廷料理長を名乗る男が、銀箱を持ち込む。
蓋が開くと、緑色の粉がふわりと舞った。
男の名は毒香師ネブラ。
食べた者だけでなく、匂いを覚えた者まで三日後に石へ変える《王殺しの香辛料》を、ギルドの換気炉へ流し込もうとしていた。
「創設者が隠した万能解毒法を出せ。断れば都中の食卓が墓になる」
緑の粉が広間を満たす。
オミルは水桶へ顔を突っ込んだため、意識を失わずに済んだ。水面越しに、ベルカが前掛けの紐を結び直すのを見る。
彼女は菜切り包丁を一度、横へ引いた。
粉が止まった。
一粒一粒ではない。空気の中から「毒」という性質だけが、薄い皮のように切り取られている。緑の香りは無害な香草となって床へ落ち、切り離された毒だけが透明な一枚へまとまった。
ベルカはそれを四つ折りにし、銀箱へ戻す。
次に包丁の峰でネブラの額を軽く叩いた。
男の舌から、覚えていた毒の調合法がすべて白い煙となって抜けた。彼は自分が何を持ち込んだかさえ分からず、椅子へ崩れる。
包丁の柄には、料理人ギルド最初の紋章が刻まれていた。
《創設者・万味剣ベルカ》
かつて竜を一太刀で三百人前に切り分け、戦争を宴へ変えた料理剣聖の名である。
彼女は換気炉を拭き、床の香草を集めて明日の賄い袋へ入れた。銀箱は毒物庫へ、ネブラは酔客として衛兵へ引き渡す。起きた職員たちは、香草袋が破れただけだと思った。
オミルには、湯気の立つ豆のスープが一杯渡された。
「見たものを話すと、味見係を増やすわよ」
少年は両手で椀を抱え、固く口を閉じる。
翌朝、産地欄を空白にした貴族が箱入り茸を差し出した。
ベルカは菜切り包丁で机を軽く叩く。
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