水曜日の採用面接

水曜日が消える会社では、面接を火曜の退勤後に始め、木曜の始業前に終える。応募者は面接室へ私物を一つ残して帰る。木曜に白い封筒と一緒に返れば採用、黒い封筒なら不採用。面接中の記憶は誰にも残らない。

沓掛啓志は、腕時計を置いた。

父から就職祝いとして先にもらったものだった。現職を辞めるとはまだ言っていない。転職理由も面接で何を話すかも決めきれないまま、火曜の十九時に面接室Bを出た。

次に目を開けた感覚は同じ廊下の木曜だった。受付に白い封筒がある。時計も戻ってきたが、針は水曜の午前二時十三分で止まっていた。

「採用です。来週からお願いします」

人事担当は啓志を祝った。

「どの部署でしょう」

「面接で合意されています」

聞き返してはいけないらしい。雇用契約書の部署欄は空白で、勤務場所は面接室B。業務は「応募者への質問」とだけある。

初出勤の日、啓志は面接官の席に座った。応募者は誰も来ない。火曜の夜になると、机の向かいに腕時計が一つ置かれた。啓志のものと同じ傷がある。

規則どおり質問票を読み上げた。

「前職を辞める理由は」

空席から、啓志の声が答えた。

『誰にも必要とされていないから』

「希望する仕事は」

『誰かを選ぶ側に回りたい』

啓志はそんなことを考えていた。口にした覚えはない。

最後の質問は、採用するなら何を差し出すか。

空席が答えた。

『水曜日の自分』

照明が消えた。

木曜の朝、机には白い封筒が二通あった。一通は新しい応募者宛て。もう一通は啓志宛ての解雇通知だった。理由は「面接官としての勤務実体が水曜日に限定されるため」。

人事へ行くと、担当者は啓志を知らなかった。社員名簿にも名前がない。ただし給与口座には、毎週水曜分の給料だけが振り込まれている。

父へ電話すると、就職祝いの時計など渡していないと言われた。まだ無職なのだから、早く決めろと叱られた。

啓志は面接室Bへ戻った。机の下に社員証が二枚落ちていた。どちらも啓志の写真で、一枚は応募者、もう一枚は面接官と印字されている。

面接官の写真だけ、口元に白い糸で縫ったような線が七針走っていた。