水車時計の一刻

段々畑の上段には、水が来ない。それでも水税だけは同じだった。

 谷村セレスでは畑一反につき麦一袋。下段の田は一日中水路を使い、上段の畑は門が閉じる頃に泥水を一杯受けるだけ。それでも面積が同じなら同額である。

 上段農家が畑を捨て始めた時、代官シェナは水門の横へ小さな水車を取り付けた。

「畑の広さではなく、水門が開いていた時間で量ります」

 水車は水が流れると回り、木札を一目盛りずつ落とす。一刻で一枚。一枚につき麦一升を納める。水が来なければ零。集めた麦は水路番の給金と、漏れを塞ぐ粘土代にだけ使う。

「上段の者が夜中に勝手に開ける」

 下段農家が疑う。

「鍵は上段と下段から一人ずつ。二人が揃わなければ開かない」

「水車をごまかしたら?」

「落ちた札は透明な箱へ入り、毎朝全員で数えます」

 最初の配水日、上段に二刻、下段に二刻ずつ割り当てられた。下段農家は収穫が減ると怒ったが、水路の途中から大量に漏れている場所をシェナが示した。

「税麦でここを塞げば、同じ四刻でも水は増えます」

 修理人を雇う前に、上段の農夫が粘土を練り始めた。下段の若者も黙って石を運ぶ。

「命令はしていません」

「分かってる」

 若者は漏れ穴へ石を押し込んだ。

「今まで上の奴らが盗んでると思ってた。盗んでたのは、この穴だ」

 その一言で、長年の睨み合いが少しだけほどけた。修理に使った粘土の量も税麦の残りも、水車小屋の壁へ記された。翌月へ繰り越す麦袋には、上段と下段の代表が一緒に封をした。

 水路掃除の日には、各家が自分の割当前に集まった。作業時間を税として数える制度はない。それでも皆が来た。水車時計の札が、誰が何刻使ったかを責めるためではなく、同じ一刻を同じ一刻として扱っていたからだ。

 夕方、修理後の水門が開く。

 透明な水が修理した枝水路を走り、乾いて割れた上段の畝へ初めて届いた。上段の農婦が手ですくい、下段の若者へ笑いかける。

 水車時計から、最初の木札が音を立てて落ちた。

『一刻』

 その一枚を、二人は同時に透明な箱へ入れた。