沼竜を洗う洗濯屋
村の大通りへ、泥の塊が歩いてきた。
泥から角と牙だけが突き出している。村人は沼竜だと悲鳴を上げ、戸を閉ざした。領主代理は、討伐した者へ銀貨を出すと触れ回った。
洗濯屋のバルドは、店先で腕を組んだ。
血気盛んな若者からは、布を洗うだけの仕事と馬鹿にされている。だが汚れには、こすって落とすものと、待ってほどくものがある。見誤れば布も皮膚も破れる。
沼竜の幼子は恐ろしげに見えたが、歩き方がおかしい。四肢を曲げるたび、乾いた泥が関節で割れ、下の皮膚を引っ張っている。長く日照りが続き、体を守る泥が鎧のように固まってしまったのだ。
「必要なのは剣じゃなく、大桶だな」
バルドは洗濯桶へ湯を張った。薬草石鹸を溶かし、長柄の洗濯棒を置く。幼竜へ背を向け、自分の袖を湯につけて見せると、泥の塊はのそのそ近づいてきた。
桶へ前足を入れた瞬間、湯が真っ黒になる。
バルドは笑った。
「これは洗いがいがある」
いきなりこすれば毛ごと抜ける。バルドは湯を何度も掛け、指が沈む柔らかさになるまで泥をふやかした。角の根元、翼の折れ目、尻尾の裏。厚い泥板が一枚ずつ落ちるたび、下から苔色の柔らかな毛が現れる。擦れて赤くなった場所には泡を避け、清水だけを手桶で静かに流した。
見守る村人から驚きの声が漏れた。
最後に腹の泥を流すと、幼竜は気持ちよさそうに喉を鳴らした。そして桶の中で盛大に身震いする。
黒い水が領主代理の礼服へ一直線に飛んだ。
村人たちが吹き出す。銀貨を掲げていた代理だけが、泥まみれで固まった。
洗い終えた幼竜は店の干し台へ上がり、バルドが大布で包むのをおとなしく待った。苔色の毛は乾くにつれ三倍に膨らみ、恐ろしい沼の怪物は、丸々した毛玉へ変わる。
幼竜はバルドの足元へ降り、巨大な顎を膝へ置いた。まだ湿った毛から湯気と草の匂いが立ち、洗濯籠いっぱいの布より重い頭が、彼の太腿を幸福そうに押しつぶしていた。