消えたレビュー
店を潰したのは、顔のない客だった。
小さな食堂を開いて一か月、一つ星のレビューが毎晩投稿された。「料理に虫がいた」「店主に怒鳴られた」「会計を水増しされた」。どれも嘘なのに、予約は消え、入口には落書きまでされた。
私は配信を始め、画面越しに被害を訴えた。疑っているのは、開店直前に辞めた元従業員だ。彼女はレシピの権利を主張し、何度も店を返せと言っていた。
最初の投稿は開店前日の深夜で、まだ客を一人も入れていない。それでも私は、試食会の参加者が書いたのだろうと主張した。
証拠としてレビューのスクリーンショットを並べた。すべて右上の時刻が午前二時十四分で、電池残量も同じだった。投稿された日が違うのにおかしい、と視聴者に指摘されたが、保存した時刻が偶然同じだったと答えた。
さらに、削除されたはずの文章が店のタブレットの変換履歴に残っていた。元従業員が以前使ったからだ、と説明した。
同情は集まり、再建支援金は目標額を超えた。私は「被害店を守ろう」と書いた限定食事券まで販売した。元従業員の家には嫌がらせが届き、彼女は謝罪動画を出すよう迫られた。
警察が店へ来たのは、その撮影の日だった。私は被害届の確認だと思い、配信を切らなかった。視聴者の前で元従業員の逮捕が決まれば、支援金の返還を求められる心配もなくなる。
捜査員はタブレットを操作し、削除済みフォルダを開いた。そこには公開前の一つ星レビューが二十件、日時指定で保存されていた。投稿用アカウントの本人確認写真には、帽子で顔を隠した私が写っている。
入口の落書きに使われた塗料も、倉庫の棚から見つかった。レビューが載る前夜、私が店の壁を塗る姿が、向かいの自動販売機のカメラに残っていた。
元従業員が「店を返せ」と言ったのは、レシピと開業資金を持ち逃げされたからだった。
店を潰された被害者ではない。
顔のない客を自分で作り、盗んだ店を同情で守ろうとした加害者だった。
最後に消えたレビューは、警察が削除したものではない。投稿予約を止められた、私自身の下書きだった。