満席なのに無一文

劇団〈紫の孔雀〉の新作初日は、立ち見まで満席だった。

終演後、座長ヴォルネスは札束の山を想像しながら売上箱を開けた。中には銀貨十二枚しかない。

「客は五百人いたぞ!」

切符係が青い券束を差し出した。招待券が二百枚。貴族向け代理店への手数料が百八十枚分。残る有料券の金は、劇場使用料と衣装の後払いで相殺されていた。

昨日追放された経理担当ユノークなら、公演前に招待枠へ上限を設け、代理店手数料を券種ごとに計算し、終演時に役者の給金が残る価格を決めていた。座長は「芸術を銅貨で汚すな」と彼を舞台裏から放り出した。

役者たちは喝采を浴びたまま、一枚も給金を受け取れなかった。舞台監督は翌日の大道具を運び出し、主演女優は衣装を脱いで自分の靴を質屋へ持っていった。

翌日の公演に必要な蝋燭屋も、前払いがなければ品を渡さない。座長は初日の評判で借りようとしたが、銀行員は空の売上箱を見て席を立った。

新聞には『今季最大の成功』という批評が載った。その紙面の横で、劇団は二日目の休演を告知する。喝采の数と、続けられる回数は別だった。

町の反対側では、小劇団〈風鈴座〉の幕が下りたところだった。客席は百席だけ。それでもユノークが券価と経費を整え、全員の袋に約束どおり銀貨が入る。

若い役者が、給金袋を掲げて笑った。

「満席じゃなくても、次の公演を続けられる!」

劇場主はユノークを舞台へ呼び、観客と団員が同じ拍手を送った。帳簿係がカーテンコールに立つのは初めてだった。

団員たちはユノークにも一輪ずつ花を渡した。彼が台詞を書いたわけでも、歌ったわけでもない。それでも全員が明日も舞台へ立てるという結末は、彼の計算が作ったもう一つの物語だった。

夜更け、ヴォルネスから花束と手紙が届く。

『経理監督の肩書を与える。明日の公演までに戻れ』

ユノークは花束を受付へ飾り、返事だけを使者へ渡した。

「肩書より先に契約が必要です。旧劇団との契約は、追放された昨夜に終演しました」