満月真珠洞の休暇札

潮路メイは、海へ潜らなくても真珠が採れる洞窟を持っている。

満月の夜、洞窟の奥にある白い泉から貝殻が十二枚浮かぶ。海獺の精たちが貝を岸へ並べ、朝日が差すと中に真珠が一粒ずつ生まれる。精は真珠だけを宝石商の転送箱へ入れ、貝殻は泉へ返す。次の満月まで、洞窟は何も要求しない。

メイは以前、真珠船の潜水士だった。

水圧で色の抜けた制服は膝が擦り切れ、腰の安全綱には補修跡が五つある。嵐でも船主が「一潜りだけ」と言えば潜った。退職してからも通信貝には、潜水要請の未読が溜まっている。

満月明けの朝、領地札に文字が浮いた。

〈真珠十二粒、月次売却完了。洞窟保全費差引後、今月の暮らし分を入金しました〉

十二粒は王都の宝冠を買うほどではない。けれど、メイが一度も息を止めず一月を生きるには十分だった。

最初の満月、メイは洞窟の入口に座り、海獺たちが働くのを眺めた。手伝おうと泉へ近づくと、一匹が濡れた前足で彼女の膝を押し返した。領主の役目は貝を増やすことでも、真珠を磨くことでもない。泉を汚さず、次の満月まで静かにしておくことだった。何もしないことが資源を守る場合もある。その理屈なら、休む自分も暮らしを守っていた。息を止めない夜のほうが、真珠より貴重だった。

海から船主の通信が届く。

『沖の大貝床を見つけた。お前なら潜れる。今日だけ来い』

「今日は浜で過ごします」

『真珠洞を手に入れたからって、腕を腐らせる気か。取り分は半分だ』

「私が欲しいのは取り分ではなく、浮いていられる時間です」

『潜水士が海を怖がるな』

メイは裸足で浅瀬へ入り、踝まで波を受けた。海は怖くない。命令されて沈むことが嫌になっただけだ。

「海は好きです。だから今日は、潜りません」

通信貝を砂へ伏せる。

海獺の精たちは仕事を終え、岩の上で腹を日に当てていた。メイも真似をして浜へ敷物を広げる。釣り竿は持ってきたが、糸は垂らさない。

竿を枕に横になる。満月までの休暇札は、空いっぱいの青だった。