火曜日の宛名
天城茉央が一日だけ外へ出て済ませる用事は、雑誌の定期購読者を変えることだった。
毎週火曜日に届く、薄いクロスワード雑誌。茉央は妹と一冊を半分ずつ解き、会うたび空欄を埋めていた。病室へも持ち込んだが、鉛筆を長く握れなくなり、最後の二ページはいつも妹が解く。それでも宛名は茉央のままだった。
購読はあと八か月残っている。出版社へ電話すれば変更できるが、電話の自動音声を最後まで聞く体力がなかった。雑誌に綴じ込まれた住所変更はがきを使うことにした。
外出の日、茉央は自宅の食卓で最新号を開いた。妹は仕事へ行っている。ページの端には、妹が丸をつけた問題が三つ残っていた。そこへ手を出さず、中央のはがきを丁寧に切り取る。
旧住所と旧氏名には自分の字を書く。新住所と新氏名には妹のものを書く。いつもより筆圧が弱く、「藤」の横線が途中で消えた。黒いペンでなぞると、その部分だけ太くなった。
変更理由の欄には、転居、結婚、その他とある。茉央は「その他」へ丸をつけた。説明欄は空白にした。出版社に事情を知らせる必要はない。火曜日に、正しい家へ雑誌が届けばよい。
はがきを持って、商店街の郵便局まで歩く。入口の段差で一度立ち止まり、局内の椅子で呼吸を整えた。窓口へ出せば切手代を確認してくれるが、住所変更はがきには「料金受取人払」と印刷されている。ポストへ入れるだけでいい。
それでも茉央は、宛名の数字をもう一度見た。妹の部屋は二〇三号室。自宅の二〇五号室と何度も書き間違えてきた。今回は二〇三。郵便番号も合っている。
ポストの前で、最新号から切り取った跡が鞄の中で開いた。次の火曜日までは、自宅へ届くかもしれない。変更に何日かかるのか、はがきには書かれていなかった。
茉央は投入口へはがきを半分差し、太くなった「藤」の字を最後に見た。指先を開くと、白い紙が内側の金属へ滑った。
重い投入口の銀色の蓋が戻り、火曜日の宛名が完全に見えなくなった。