灯火の返礼

晩餐広間の壁際で、灯火係の侍女アマリエは、消された燭台を一本抱えていた。

真実灯へ火を移せば、その場で語られた嘘を一つ暴ける。代わりに炎は、灯を掲げた者の隠し事を一つ、全員へ告げる。

広間の中央では、宝石箱を抱えた侍女が跪いていた。王妃の首飾りが彼女の寝台から見つかったのだ。

「この者が盗むところを見た」

侍従長はそう証言した。だがアマリエは知っている。昨夜、消灯後の廊下で侍従長が侍女部屋へ入るのを見た。今朝には彼の帳簿から大金の不足も見つかっている。首飾りを売る前に、罪を押しつけるつもりだったのだ。

証言できるのはアマリエだけだった。けれど侍従長は王家に三十年仕え、彼女は燭台を磨く名もない侍女だ。すでに王妃は衛兵へ合図を出しかけている。

腕の中の真実灯は冷たい。

アマリエにも隠し事があった。

王宮で働く者は、親の借金が残っていてはならない。彼女は採用の朝、父の負債証明から一桁を削った。そうしなければ、幼い弟妹へ食べさせる給金を得られなかった。

借金は七年かけて返した。いまは誰にも迷惑をかけていない。それでも偽造は偽造だ。知られれば職を失い、城の門で罪人の印を押される。婚約している門衛にも、何も話していない。

跪く侍女が顔を上げた。三日前、アマリエが熱を出したとき、夜通し灯火の見回りを代わってくれた人だった。

「盗んでいません」

声は震えていた。

侍従長が鼻で笑う。

「嘘つきは皆、そう申します」

アマリエは壁の常灯から火を取った。小さな青い炎が真実灯へ移る。

「では、灯に聞いていただきましょう」

広間がざわめいた。侍従長の顔から血の気が引く。

真実灯を掲げると、炎が細く伸びた。

『首飾りを寝台へ入れたのは、証言者』

炎の声が天井まで響く。衛兵たちが侍従長を取り囲み、王妃が侍女へ立つよう命じた。

これで終わりではない。真実灯は必ず代価を返す。

アマリエは炎を見つめた。門衛との婚礼、弟妹へ送り続ける給金、ようやく得た自分の寝台。それらが、次の一言の向こうにある。

炎が赤く変わった。

『この灯を持つ侍女は、採用証明を偽造した』

広間中の視線が、侍従長からアマリエへ移る。

彼女は燭台を下ろさなかった。腕が震えても、救われた侍女の立つ姿が見えなくならない高さに、最後まで掲げていた。