灰銀剣の二つの刻印
王国武具祭の最終審査で、名工バグノル・エッジは灰銀の長剣を審査台へ置いた。
「百年折れぬ新合金。私の最高傑作です」
観客が息をのむ。弟子リュネ・カストが、失敗した鉱石を夜ごと溶かし直して生み出した剣だった。バグノルは完成した朝、彼女を工房から追い出し、自分の刻印を鍔へ打った。
「弟子は炉の煤を掃いただけだ」
審査長が剣身を見て言う。
「名工の証として、公開焼き戻しを。鍛造者ご本人なら問題はありますまい」
「もちろんだ」
焼き戻しは、刃を青炎へ通して内部の層を確認する審査だ。偽の鍛造者なら避けるが、バグノルは自分の刻印がある以上、何も出ないと信じていた。
彼自身が剣を炉へ入れた。
灰銀の刃が赤く染まり、表面の名工印が溶けるように薄くなる。その下から、細い星形の刻印が十七個、層ごとに浮かび上がった。
――鍛造者、リュネ・カスト。
王国鍛冶師の金床は、一度打つたび、槌を握った者の魔力を金属内部へ刻む。外から別の印を重ねても、焼き戻せば順番まで現れる。
第一層から第十七層まで、すべてリュネの名。
最後の表面だけに、別の記録があった。
――完成後、バグノル・エッジが所有印を上打ち。
炉が音声まで吐き出す。
『刻印を深く打てば弟子の痕跡は消える。審査で焼き戻しを求められても、私が断ればいい』
だが名工は今、自分から公開焼き戻しを受け入れた。
バグノルは火鋏を落とした。
「工房の設備を使った以上、作品は親方のものだ!」
リュネは台へ近づき、剣を一度だけ振った。刃は試し石を音もなく二つにし、欠け一つ残さない。観客の息が、遅れて戻った。
三人の審査員が順に刃を軽く打った。澄んだ音が三度、祭殿の梁まで伸びる。欠陥が一つでもあれば濁るはずの音だった。バグノルの工房旗が下ろされる前から、注文札はすでにリュネの足元へ置かれ始めていた。
審査長は名工章を保管箱へ戻し、鍛冶師法の宣告文を読む。
「バグノル・エッジ。鍛造印の偽造と弟子作品の窃取により、特級鍛冶師位を永久剥奪する」