無人採用課の新人

四半期の初日、無人採用課から新人が一人届く。履歴書は白紙で、名札には〈新人〉とだけある。所属長は机を用意し、前職を尋ねず、最初の給与日まで名前をつけてはいけない。集合写真へ入れてもならない。誰も採用課の面接官を知らなかったが、新人は毎回、必要な部署へ正確に配属された。

システム開発班の百目木は、初めて所属長になった朝、その新人を受け取った。若い男で、黒いシャツの袖を二度折り、説明を聞くときだけ鉛筆を横に置いた。

三年前に亡くなった同期の安積と同じ癖だった。

安積は深夜作業の帰りに駅で倒れた。会社は事故として処理し、彼の席を翌週には片づけた。百目木はもっと早く帰れと言えなかったことを、誰にも話していない。

新人は仕事が速かった。百目木が残業を頼む前に、「明日で間に合います」と答える。障害対応で午前零時を過ぎると、百目木のパソコンを勝手に閉じた。

「所属長が帰らないと、新人は帰れません」

無人採用課の規則にそんな項目はない。それでも百目木は帰った。久しぶりに終電前の電車へ乗り、コンビニ以外の灯りが残る街を見た。

給与日までの一か月、新人は百目木の残業を減らした。同僚たちは助かったと言ったが、名前を知らないため、話題にするときは皆「新人」とだけ呼んだ。

最初の給与日、経理から封筒が届いた。規則では、その中に正式な氏名がある。百目木が開くと、給与明細の氏名欄には〈百目木〉と印字されていた。社員番号も彼と同じだった。

新人は「これで名前を呼べますね」と言った。

同じ名の社員を同じ部署へ置くことはできない。どちらかを無人採用課へ返す必要がある。返却者は所属長が決める。

百目木は返却票へ自分の番号を書いた。安積に言えなかった言葉を、新人へ言う。

「今日は定時で帰れ」

新人は初めて鉛筆を置かずに笑った。

翌朝、百目木の入館証は反応しなかった。受付は彼の顔を知っていたが、「無人採用課の方は来訪記録を残せません」と通した。開発班では新人が所属長の席に座り、百目木の名で朝会を始めていた。誰も困っていない。

百目木は自分の机から私物を持ち出した。最後の引き出しに、安積が使っていた黄色い鉛筆が一本あった。芯は削られておらず、側面に小さく〈帰宅済〉と刻まれている。

外へ出ると、鉛筆が手の中で少しずつ温まり、折ったことのない袖の形に曲がっていった。