片耳ぶんの箱

 葛城佳澄は、喫茶「双葉」の閉店市で、片方だけのイヤリングを見つけた。

 乳白色の小さな石が一粒。金具は古いが、傷はない。値札には「片耳用」と書かれ、半額とも欠品とも記されていなかった。

 佳澄は自分の小さなアクセサリー店を、今月で畳むつもりだった。左右一組の商品を作り、写真を撮り、発送する。好きで始めたのに、売れ残るたび「二つとも選ばれなかった」と感じるようになった。昨夜、販売サイトの解約画面まで進み、最終確認だけを残している。

 店内に客は佳澄ひとり。時計は閉店七分前で、店主は本棚の布を外して箱へしまっていた。

「相方は、なくなったんですか」

 佳澄が尋ねると、店主は古い帳面を確認し、首を横に振った。最初から一つで仕入れたらしい。

 会計を頼む。

 店主が出したのは、二つの溝がある細長い箱だった。佳澄は空いた側に綿を詰めるのだと思った。けれど店主は、イヤリングを右の溝へ留め、左は空のまま蓋を閉じた。揃っていないことを隠す包装ではなく、一つが一つとして収まる包装だった。

 レシートの品名も「イヤリング 一点」。片割れ、という文字はない。

 佳澄は箱を開き直した。左右対称の空間の片側だけに、乳白色の石が落ち着いている。空白のせいで寂しく見えるかと思ったが、むしろ一粒の形がよく分かった。

 販売サイトの解約画面を閉じる。

 商品登録を新しく開き、片耳用の試作品を一つ撮影する。左右で違うものを選べるよう、組み合わせ欄も作る。以前なら「セットにならない在庫」と呼んでいた品だ。

 タイトルへ、「一粒ずつ選ぶイヤリング」と入力した。

 まだ売れるかは分からない。店を続けられる数字になる保証もない。それでも、二つ揃わなければ商品ではないと決めていたのは、市場ではなく自分だったかもしれない。

 店主は入口の鍵を閉める前、佳澄が箱を鞄へ収めるのを待った。蓋が浮かないよう、空いた側を上にして渡してくれた。

 佳澄は解約期限を一か月延ばした。

 一人ぶん、片耳ぶんから、店をもう一度並べ直すことにした。