王子の産声に混じった呪い
聖女フェルネアが王宮を追われて七日目、王子が生まれた。
産声と同時に、赤子の額へ黒い王冠の形が浮かんだ。
王妃イサドラが抱こうとすると、赤子の影から小さな手が伸び、母の喉をつかむ。侍医が光魔法を当てれば影は濃くなり、乳母が近づけば泣き声が老人の声へ変わった。
王家には「第一子は祖王の呪いを継ぐ」という古い記録があった。だが過去四代、王子も王女も健康に育ったため、誰も真剣に読まなかった。
その四代すべての出産記録には、同じ処置が記されていた。
――聖女、血統呪詛を灯芯へ移す。
フェルネアは出産のたび、産室の片隅で一本の蝋燭を燃やしていた。生まれた子へ集まる祖先の呪いを、火へ少しずつ移すためだ。火が消えるまで三日眠れず、本人の髪が白くなるほど負担があった。
王族はそれを縁起担ぎと思った。王妃の懐妊が遅れた責任まで彼女へ押しつけ、「子を授けられない聖女」と国外へ追放した。
産室には代わりの蝋燭が百本並べられたが、ただの火では呪いは移らない。王子の影は日が暮れるほど大きくなった。
宮廷祓魔師は影へ聖槍を向けた。影は王子から乳母へ、乳母から侍医へ移り、産室にいた者の声を次々と奪った。ついには王妃以外を部屋から出すしかなく、祝いの鐘が鳴る宮殿で、産室だけが黒布に覆われた。
王子の名を決める祝宴も延期された。名前を呼ぶたび影が笑うため、宮廷では赤子を『殿下』としか呼べなくなった。
国境の助産院では、フェルネアが貧しい夫婦の赤子を抱いていた。院長ヌーラが、彼女の白くなった一房の髪へ気づく。
「ここでは一人で背負わせない。呪いを受ける器も、夜番も、私たちが用意する」
院は彼女の術を神秘として隠さず、助産師全員が補助できる手順へ改めた。フェルネアは初めて、祈りの途中で温かい食事を取れた。
夜、王妃の直筆書状が届いた。
――母として願う。戻ってこの子を救ってほしい。
フェルネアは赤子を寝台へ戻し、静かに封を閉じた。
「王家の血統守護契約は、国外追放令が発効した日に終了しました」